2020~21年度の経済見通し
-「コロナ・ショック」からの持ち直しはL字型-

論文2020年5月22日

野村證券金融経済研究所 経済調査部 美和 卓、桑原 真樹、岡崎 康平、棚橋 研悟、髙島 雄貴、新井 真

目次

日本経済:「コロナ・ショック」からの持ち直しはL字型

  1. (1)総括
  2. (2)輸出は4-6月期に大幅減少、7-9月期以降は緩やかな増加へ
  3. (3)鉱工業生産は大幅減少へ、業種ごとの濃淡も
  4. (4)新型コロナウイルス禍で設備投資は大幅減少へ
  5. (5)雇用・賃金は今後、更に悪化する見込み
  6. (6)個人消費は4-6月期に更に減少し、その後、緩やかに改善しよう
  7. (7)住宅着工戸数は回復しかけるも新型肺炎禍でまだ落ち込む見込み
  8. (8)公共投資は目先減少、今後の景気対策では公共投資上積みも
  9. (9)新型肺炎禍の景気の落ち込みで物価の持ち直しは遅れよう
  10. (10)低下する追加金融緩和の可能性
  11. (11)日本経済見通し
  12. (12)世界経済見通し

米国経済:景気後退入りへ

ユーロ圏経済:追加の量的緩和を見込む

英国経済:資産購入枠の拡大が必要に

中国経済:景気急回復への期待は遠のきつつある

要約と結論

  1. 5月18日公表の20年1-3月期GDP1次速報、政府による39県を対象とする緊急事態宣言解除及び残る都道府県での解除の可能性を念頭に、2020~21年度の経済見通しを改定した。19年度実績の実質GDP成長率(前年比)-0.1%に対し、20、21年度はそれぞれ同-5.7%、+3.9%を予想する。前回4月17日時点見通しとの比較では、20、21年度がそれぞれ0.1ppt、0.6pptの上方修正となる。
  2. 野村では、欧米主要都市の封鎖措置(ロックダウン)に伴う需要急減、国内での緊急事態宣言発令を背景とした外出抑制、営業休止の影響を受け、20年4-6月期実質GDPは前期比年率-26.5%と極めて大幅な減少を記録すると予想する。しかし、欧米でのロックダウン、国内の緊急事態宣言がいずれも5月に入ってから徐々に解除に向かっていることから、7-9月期以降経済成長は持ち直しに向かうと判断する。しかし、新型コロナウイルスの感染再拡大を防ぐため今後も緩やかながら行動・営業制限を継続することが求められる上、4-6月期までに生じた需要減少が、所得(賃金、企業収益)の減少を通じて今後も支出(家計消費、企業設備投資)の抑制を持続させる可能性が高い点からも、7-9月以降の成長加速は極めて緩慢な「L字型の回復」となる公算が大きい。
  3. 国内の物価環境は、一時的にデフレ化する公算が大きい。20年4-6月期にかけての需要急落に加え、その後の回復が鈍いことから、需給ギャップの改善も緩やかなものに留まる上、原油をはじめとする国際商品市況の急落により投入価格の下落の影響が及んでくると考えられるためである。20、21年度のコア(生鮮食品を除く、消費増税、教育無償化の影響を含む)消費者物価はそれぞれ前年比-0.6%、±0.0%を予想する。これらは、前回見通しに比べ、それぞれ0.3ppt、0.4pptの下方修正となる。
  4. 政府はこれまで、4月に決定した117兆円規模の緊急経済対策に加え、20年度第2次補正予算編成を通じた追加経済対策策定に動いてきた。これらは、1)感染制御のための医療体制整備、2)雇用対策・個人所得補償策、3)企業の資金繰り支援、に重点が置かれてきた。しかし、7-9月期以降も持続が予想される所得・支出減の悪循環のリスクを踏まると、感染制御に向けた活動制限とのバランスをとりながら、徐々に政策的な需要創出策を打ち出していくことが求められるだろう。20年度第3次補正予算以降の対策においては、雇用創出効果の大きい公共事業費の追加が行われる可能性が高いと予想する。