地方創生と地域金融機関の『生き方』の多様性

編集者の目2020年7月31日

野村資本市場研究所 執行役員 関 雄太

新型コロナウイルス感染症(以下コロナ)拡大による人の移動の急減、あるいは度重なる自然災害の発生など、日本の地方経済に深刻な打撃を与える事態が相次ぎ、実際に経営悪化や倒産・破綻に至る例が増えている。そうした中、地方銀行による資金繰り支援・企業救済への期待が高まっており、政府・国会も、地域金融機関側から公的資金の申請がしやすい環境を整える、通称「コロナ特例」を含む改正金融機能強化法を成立させるなど、安全網強化のための措置を講じている。

その一方で、本業の預貸ビジネスの不振など構造問題を抱える地銀を公的資金で支えることや、持続可能性が期待できない企業への貸出を続けることに対して、モラルハザードの発生や新たな不良債権問題につながるという懸念から、慎重論や反対論も多い。

この意見の衝突は、地方経済を取り巻く環境と、地銀に求められる金融機能が根本的に変わってしまった状況で象徴的に表出してきた可能性がある。すなわち、かつての経済危機であれば地銀が真っ先に救済に向かったはずの大企業は、製造業を中心に雇用や生産などの諸機能を海外に分散しつつあり、そもそもの借入需要も少なくなっている。一方、観光業を中心に、中堅・中小企業の多くは定住人口よりも交流人口に着目して事業展開し、コロナ危機で深刻な打撃を受けているが、地域の魅力を維持するためにも継続的な支援が求められよう。また、メガバンクが地方支店を閉鎖していることなどもあり、地銀の預金量はさほど減少していない。人口減少とは言え、リテール顧客のマイクロな金融ニーズへの対応は、従来以上に重要になっている。

こうした環境変化を俯瞰すれば、地域ごとの個別性はあるにせよ、ポストコロナ時代の地域金融機関には、(1)かつて主戦場であった企業・不動産関連融資のさらなる縮小に備えること、(2)農業・観光・医療・環境など、従来はJA・信連や信用金庫、公的機関などが支えてきたセクターにもカネ・ヒト・アイデアを提供すること、(3)リテール顧客の貯蓄を適切に運用することなどの役割が求められると言える。だとすれば、地銀の「生き残り策」も、従来とは発想を変えて議論していくべきで、伝統的な銀行業の範疇外の金融機能強化に活路を見出すことが必要になるはずである。

例えば、企業支援の方策として「融資よりも出資」が叫ばれ、実際に出資規制緩和なども検討されているが、エクイティの供給と販路拡大・後継者探しなど企業価値向上のためのハンズオンの経営支援は、企業再生ファンドが本業としてやっていることである。かつて産業再生機構が地方の小売・バス交通・旅館会社などを支援した頃とは違い、民間にもプライベートエクイティファンドや専門人材が豊富に存在していることを考えれば、適切な連携と役割分担が図られるべきで、地銀が銀行のまま出資機能や経営支援機能を拡大することは利益相反やリスク管理上の問題を引き起こす可能性もある。農業・観光などの分野でも、同様のことが言えよう。

また、顧客の貯蓄を、一部は地域内に還流させつつ、地域外の投資機会とつなぐことは、おそらく地域金融機関にしかできない機能だが、実際に世界中から有能なファンドマネージャーや投資機会を探し出すスキルは、リサーチ機能や海外ネットワークを持つ証券・投資銀行やアセットマネジメント会社にかなりの優位性があり、何らかの形で専門プレイヤーとつながっていく必要がある。

以上のように考えてくると、地銀を銀行のまま統合再編して大規模化する、あるいは徹底した効率化で預貸機能を維持するという道筋が、あくまで選択肢の1-2本でしかないことに気づかされる。逆に、投資会社化する、非上場化して協同組織金融機関と統合する、ファンドディストリビューター化するといった道筋ができるのであれば、地方創生のコーディネーターとしての地銀の可能性は大いに拡がるとも考えられる。

フランスのクレディ・アグリコルは、今でこそ世界最大級の総合金融グループを形成しているが、元は農業向け与信などを行う地域金庫の中央組織が株式会社化・上場したものであり、現在でも傘下の地域金庫は個別に地域密着型の金融サービスを続けている。また、大手アセットマネジメント会社アムンディの大株主でもあるなど、中央と地方、銀行と非銀行、上場(株式会社)と非上場(協同組織)を結びつけたユニークな事業構造は、丸ごとは無理にしても日本でも参考にできることが多い。ポストコロナ時代の地方創生を見据えて、ナローパスとなった「地銀の生き残り策」を考えるのではなく、「地域金融機関としての生き方」そのものに多様な選択肢を創ることが求められていると言えよう。

[参考文献]
  • ・神山哲也「フランスに見る協同組合金融機関改革-クレディ・アグリコルの事例」『野村資本市場クォータリー』2014年秋号

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