新型コロナ禍の企業収益、日本企業の新型コロナ対応を考える

編集者の目2020年8月14日

野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー 海津 政信

新型コロナウイルス(以下コロナ)感染症を抑え込むため緊急事態宣言(国内)や都市封鎖(欧米)が行われ、その影響が注目された20年4-6月決算発表が概ね終了した。4-6月決算を踏まえた20-21年度予想は日本企業ボトムアップ業績見通し集計に譲るとして、本稿ではコロナ禍の企業収益の特色、日米比較、今後の日本企業のコロナ対応等を考えてみたい。

まず、コロナ禍の企業収益の特色を一言で言うと、二極化であろう。4-6月決算で前年同期比74%営業増益を達成した東京エレクトロン等のハイテク企業や営業利益倍増となった日清食品ホールディングス等の食品企業がある一方、大幅赤字を余儀なくされた全日空、日本航空の空運2社やJR東日本、JR東海、JR西日本のJR3社等が併存している。東京エレクトロンの好調は5G(第5世代移動体通信)の普及やテレワークの拡大に伴う基地局やパソコン、データセンター用半導体投資の拡大の恩恵であるし、日清食品ホールディングスの好調は巣籠消費拡大の恩恵であろう。他方、ステイホームで旅行、出張、通勤が大幅に減少し、旅客収入が激減した影響が空運2社やJR3社の大幅赤字をもたらした。感染症の拡大に伴う人々の行動変容がもたらした明と暗であることは間違いない。

もう一つの二極化がトップ企業とそれ以外の格差拡大である。具体的には、自動車業界でのトヨタ自動車とその他企業で起きた明暗が典型的だ。一段の損益分岐点の引き下げと相対的に堅調な販売で黒字を維持したトヨタ自動車と、損益分岐点が高く赤字を余儀なくされたVW(フォルクスワーゲン)や日産自動車との格差は明瞭だ。

次に、日米比較をしてみよう。この4-6月決算で日米の違いを最も感じさせられたのは、米国の大手IT(情報技術)企業の稼ぐ力の強さ、成長力の高さであった。稼ぐ力を見せつけたのはアップルで、4-6月期の売上高597億ドル、市場予想(ブルームバーグ集計アナリスト予想平均)比14%の上振れ、EPS(一株当たり利益)は2.58ドルで市場予想比上振れであった。在宅勤務やオンライン学習の広がりを背景に、Mac、iPadの出荷が好調だったことに加え、コロナ禍の中、価格を400ドルに抑えた新型iPhone SEが予想以上に販売を伸ばしたことが追い風になった。廉価版をこのタイミングで投入したこと等、巧みな舵取りが光ったとも言えよう。

一方、成長力の高さをみせたのはアマゾン・ドットコムで、4-6月の売上高は前年同期比40%増の889億ドル。四半期売上高が日本円で9兆円超の巨大企業が40%もの成長を見せたのだから凄い。本業のEC(電子商取引)ビジネスがコロナ禍で外出制限を受ける中大きく成長した上、子会社AWSで展開するクラウドビジネスが高成長を続けた結果である。

こうした事実及び分析を踏まえ、日本企業のコロナ対応として以下の4点が重要と考える。

第1は、日本流のプラットフォーマーの育成であろう。稼ぐ力を高める、成長力を高めるにはプラットフォーマーの存在がほしい。そこで、日本流のプラットフォーマーを探すといくつかの領域で存在することに気が付く。1つはゲームである。ソニーのプレイステーション、任天堂のニンテンドースイッチはゲームの領域で世界に誇りうる。2つはFA(ファクトリーオートメーション)領域であろう。ファナックのNC装置は日本の工作機械を世界に冠たる存在に押し上げた。キーエンスのセンサー領域での高成長は今まさに旬を迎え、株価評価も高まっている。3つは医療・ヘルスケア領域であろう。インターネットを利用した医療関連サービスを提供するソニーの関連会社のエムスリーは過去5年で年20%の売上成長を達成している。

第2は、EC化、オンライン化であろう。対面販売が新型コロナ感染症で難しくなる中、EC化、オンライン化が進んでいこう。楽天はもとよりファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するZOZO、家電量販店でEC化に力をいれるビックカメラ、宅配を担うヤマトホールディングス、佐川急便を展開するSGホールディングス等の成長が期待される。

第3は、損益分岐点の引き下げ、ダウンサイズ化であろう。トヨタ自動車が損益分岐点を引き下げ、需要の底であった20年4-6月期に世界の自動車大手で唯一黒字を維持した点に学ぶことが必要だ。ワクチンの実用化で21年以降空運、JR等の旅客は戻ってくるだろうが、人々の行動変容を考えるとコロナ以前の需要水準を回復するのは容易ではないだろう。損益分岐点の引き下げ、ダウンサイズ化が必要だろう。

第4は、ワクチンの開発にもっと力を入れたい。大阪大学、アンジェス、タカラバイオが新型コロナウイルス感染症ワクチンの開発に積極的に取り組み、7月から治験を開始しているのは良い動きだが、日本の製薬大手は欧米の製薬大手に比べると対応が遅かったように見える。塩野義製薬、第一三共等で独自の取り組みが始まり、最大手の武田薬品工業が米国のノババックスから技術を導入し、国内で年間2.5億回分以上のワクチンを製造するとの発表があり一安心だが、今後一層の取り組みを期待したいところだ。

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