2020~22年度の経済見通し
-コロナ禍からの正常化への道程-
論文2020年8月24日
野村證券金融経済研究所 経済調査部 美和 卓、桑原 真樹、岡崎 康平、棚橋 研悟、髙島 雄貴、新井 真、伊藤 勇輝
目次
日本経済:コロナ禍からの正常化への道程
- (1)総括
- (2)輸出は緩やかな回復局面へ
- (3)在庫高水準ながら鉱工業生産は持ち直しへ
- (4)コロナ禍でも意外に底堅い設備投資
- (5)雇用・所得環境は今後、緩やかに改善する見込み
- (6)個人消費は緩慢な持ち直しへ
- (7)住宅着工戸数は7-9月期を底に緩やかな回復へ
- (8)第三次補正予算、来年度予算の編成に注目
- (9)先行き物価は再び低下に転じるとの判断を維持
- (10)金融政策による財政ファイナンス懸念は杞憂
- (11)日本経済見通し
- (12)世界経済見通し
米国経済:コロナ下での景気回復
ユーロ圏経済:遠のく景気回復
英国経済:景気の完全回復は2023年以降に
中国経済:政府の新たな基本方針
要約と結論
- 8月17日公表の20年4-6月期GDP1次速報値を受け、2020~22年度の経済見通しを改定した。20、21、22年度の実質GDP成長率の予測値は、前年度比でそれぞれ-6.4%、+4.8%、+3.0%である。
- 4-6月期GDP(国内総生産)1次速報値においては、実質GDP成長率が前期比年率-27.8%と戦後最大の落ち込みを記録したが、5月に入ってからの緊急事態宣言の段階的解除を受け、6月の経済活動は比較的力強く回復した。その「ゲタ」の効果もあって7-9月期実質GDPは前期比年率+9.7%と大きな反発を予想する。しかし、7月以降の国内での新型コロナウイルス(以下、コロナ)感染再加速を受け実質消費の回復が鈍ることが想定され、全体としては緩慢な回復を想定した従来シナリオの範囲内で推移していると評価できる。
- 野村では、コロナ完全収束後の基調的な実質成長率(潜在成長率)は、日本のみならずグローバルにも、コロナ前より低下すると予想する。しかし、コロナ禍からの正常化過程となる21、22年度に向けては、所得、需要の反動増効果から、潜在成長率(0%台後半程度)を上回る実質成長が実現すると予想する。比較的高い水準を維持している建設投資や、コロナ禍を受けたデジタル化に向けた投資加速などにも支えられ、実質設備投資が他の需要項目と比べ底堅く推移していくと見込まれる。
- コロナ禍からの正常化過程における高めの実質成長によっても、需給ギャップの逼迫は生じないだろう。コア(生鮮食品を除く総合)消費者物価上昇率でみたインフレ率は、20~22年度についてそれぞれ前年度比-0.7%、-0.2%、+0.4%と予想する。国内でのコロナ禍による需給ギャップ拡大に加え、世界的な需要急減を反映した商品市況の低迷が特にエネルギー価格を押し下げる効果を通じ、日本のコアインフレ率は一旦マイナス圏に陥ることが不可避であろう。こうした環境下で、極めて緩和的な金融政策、需要刺激効果を意図した拡張的な財政政策スタンスは当面継続されることになろう。