菅新政権が発足、デジタル化と緩和継続で株価上昇を期待

編集者の目2020年9月24日

野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー 海津 政信

菅義偉新政権が9月16日に発足した。菅新首相は、重要閣僚として麻生太郎副総理兼財務大臣、茂木敏充外務大臣等を前安倍晋三政権から引き継ぐ一方、平井卓也デジタル改革・情報通信技術(IT)政策担当大臣を再起用し、河野太郎防衛大臣を行政改革・規制改革担当大臣に横滑りさせ、2人3脚で縦割り行政の打破、とりわけ遅れの目立つ我が国のデジタル化を促進するためのデジタル庁の設置を新政権の目玉政策として打ち出した。携帯電話料金の引き下げ、地方銀行の再編等、他の政策項目もあるが、やはり目玉はデジタル化であろう。

そのデジタル化は、7月17日に閣議決定された今年の骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針2020)に明記されている。すなわち、第3章の1に、「デジタル化の推進は、日本が抱えてきた多くの課題解決、そして今後の経済成長にも資する。単なる新技術の導入ではなく、制度や政策、組織の在り方等をそれに合わせて変革していく、言わば社会全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)が新たな日常の原動力となる」と記し、具体的に以下の点を提案している。(1)さまざまな行政手続きのデジタル化を実現、そのための司令塔機能を民間の専門家も交え構築する。(2)マイナンバー制度を、行政手続きをオンラインで完結させることを原則として、使い勝手の良いものに作り変える。(3)国と地方のデジタル基盤の統一・標準化を加速し、対面や押印の不要化、申請書類の縮減等を進める。(4)AI(人工知能)を活用した行政サービスの推進等に向け、分野間データ連携基盤の構築やオープンデータ化を推進する。(5)Society5.0の実現に向け、経営者に求められる対応をデジタルガバナンス・コードとして早期に策定する。(6)DXの基盤となる5G(第5世代移動通信)のネットワークの整備を促進するとともに、ポスト5Gに関する技術開発を推進する。(7)テレワークの定着・加速を図るため、中小企業への導入に向けて各種支援策を推進する。(8)高校・大学の遠隔教育について単位上限ルール等の見直しを進め、オンライン診療について、診察から薬剤の受取まで完結する仕組みを構築する等である。安倍政権の下でまとめられた骨太方針を菅政権の下で実現していくことになる。これが実現すれば、官民でデジタル投資が盛り上がり、生産性向上が期待できよう。アベノミクスにやや欠けていた構造改革、成長戦略が進むことになる。河野大臣、平井大臣の役割は大変大きいと言えよう。

加えて、重要なのは緩和的な金融環境の維持、円高の抑止である。2008-09年のリーマンショック当時、近隣窮乏化に繋がる通貨切り下げ競争を避けるとの国際合意があったが、当時の日本銀行は十分な金融緩和策を採らず、むしろ円高が進みデフレがひどくなった。今回は政府と日本銀行の間で2%の物価安定目標を共有し、日本銀行は黒田東彦総裁の下で緩和的な金融政策を継続している。しかし油断は禁物である。ECB(欧州中央銀行)に続き、FRB(米連邦準備制度理事会)の日本銀行化が進み、日米金利差は縮小している。粘り強く金融緩和を継続し、日本の10年国債金利をゼロ近傍に抑え円高抑止を図ることが大事だろう。

こうして菅政権によるデジタル投資の活性化、我が国経済の生産性上昇期待と日本銀行による緩和的な金融環境の維持、円高抑止が組み合わされば、企業業績の回復、拡大予想を視野に株価は踊り場を抜け上昇に向かおう。その際の関心事の一つは外国人投資家も注目する解散・総選挙の時期であるが、菅新首相はまずは政策遂行との考えが強いようで、新型コロナ感染症が落ち着きを見せ、経済活動の正常化観測が出ても、今秋の解散・総選挙は行わず、任期満了に近い解散・総選挙を選択する可能性もある。

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