新型コロナ禍でも急ピッチで回復する米国経済

編集者の目2020年11月2日

野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー 海津 政信

米国の2020年7-9月期のGDP速報が10月29日発表された。実質GDPは前期比年率33.1%の増加となり、4-6月期に新型コロナウイルス感染症を抑え込むために都市封鎖を実施して同31.4%減少となった落込みの75%を取り戻した。新型コロナウイルス感染症がニューヨーク州を中心に猛威を振るっていた半年前の今年4月頃には、ワクチンが実用化される前は、人々は慎重に行動するためL字回復かせいぜいU字回復だろうと見られていたが、予想を良い意味で裏切るV字回復となった。ちなみに、年率33.1%増は比較可能な統計がある1947年以降では最大の増加率だ。

需要項目別にみるとどうか。まずGDPの7割を占める個人消費は前期比年率40.7%増加(4-6月期は同33.2%減少)した。感染症を恐れ、公共交通機関を避けたい人々が自動車の購入に向かった。テレワークやオンライン教育に対応するため、PCやタブレットの購入が増えた。この結果、自動車などの耐久消費財が同82.2%も増え、消費回復を先導した。もちろん、個人消費の増加の背景にはトランプ政権と議会が行った2.9兆ドルの財政出動がある。大人1人に最大1,200ドルの現金支給を行い、また失業保険給付に連邦政府が週600ドルの上乗せを行った。このため、FRB(連邦準備制度理事会)発表の資金循環によると、米国個人の現預金は6月末に3月末から1.3兆ドル増加し、15.7兆ドルに達した。これが7-9月期の消費拡大の原資になったと言えそうだ。

また、住宅投資が前期比年率59.3%増加(4-6月期は同35.5%減少)した。FRBが積極的な金融緩和策を取り、長短金利が大きく低下し住宅ローン金利が下がった効果が大きい。フレディーマック(連邦住宅抵当貸付公社)によると、30年固定金利は今年3月の3.5%が9月には2.9%、10月には2.8%まで低下している。もちろん、FRBによる金融緩和、政府の財政出動等で株高になった効果もあるだろう。米国個人の株式保有額は、6月末には3月末に比べ3.5兆ドル増加し、19.5兆ドルに達している。これも7-9月期の住宅投資の原動力になったものとみられる。

今後の見通しはどうか。10-12月期は新型コロナウイルス感染症の再拡大が懸念されているが、米国は欧州ほどではないだろう。4月の感染拡大の中心であったニューヨーク州は概ね抑制されたままであるし、7月の感染拡大の中心であったフロリダ州、テキサス州、カリフォルニア州も再度増えているが、当時のピークまでには距離がある。10月以降の拡大の中心はイリノイ州、ウイスコンシン州であるが、すでに規制強化が打ち出されつつある。一方、企業活動に目を向けるとむしろ底堅さが感じられる。アマゾン・ドットコムは10月29日に7-9月期決算と10-12月期見通しを発表したが、7-9月期の売上高は前年同期比37%増の961億ドル、10-12月期の売上高見通しは同28-38%増の1,120-1,210億ドルとしている。ホリデーシーズンも人々は積極的にオンラインショピングを増やす見通しのようだ。そして、1.5-2兆ドル規模の経済対策の第4弾が大統領選挙後決まってこよう。21年前半の景気の支えになるだろう。

最後に、大統領選挙の見通しと経済への影響を考えてみたい。各種世論調査は民主党のバイデン候補の優勢を示しているが、私はトランプ大統領の再選の可能性はあるとみている。第1に、7-9月期の実質GDPのV字回復にみられる通り、現職大統領の再選に不可欠な経済状況の改善がぎりぎり間に合った可能性がある。第2に、10月22日の米大統領選挙の最終討論は、トランプ大統領もルールを守りかつ受け答えが安定していた。一方、バイデン候補は再生エネルギー重視までは良かったが、「石油産業を終わらせる」とまで発言。これは重要な接戦州であるペンシルベニア州がシェールオイル&ガスの一大産地であることを忘れた失言であったろう。第3に、最終盤でのトランプ大統領の接戦州での追い上げは数週間前に新型コロナウイルスに感染し、入院したことを感じさせないエネルギッシュなものであった。選挙結果が待たれる。

中期的な米国経済への影響は、経済学のセオリーに則ればトランプ大統領の非増税路線のほうが良いとみるが、バイデン候補も増税を上回る財政出動を計画しているため、経済の失速が起きることはなさそうだ。もちろん、ワクチンの実用化が21年以降の経済成長の後押しに寄与しよう。

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