イエレン財務長官、パウエルFRB議長を好感する米株式市場

編集者の目2021年2月2日

野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー 海津 政信

1月20日、米バイデン政権が始動した。これに先立つ1月5日のジョージア州の上院決選投票で上院での議席を50議席とし、上院議長も兼ねるハリス副大統領が賛成票を投じれば、民主党が過半数を占める情勢にぎりぎり持ち込めた。すなわち、大統領、連邦議会の上院と下院のすべてで民主党が多数を占めるトリプルブルーとなり、政権運営で一定の自由度を確保することができたのである。

新政権にとって当面最も重要なのは、ワクチンの集団接種を通じた新型コロナウイルス感染症の封じ込めと、経済の回復に資する大規模な財政刺激策の成立である。この財政刺激策を担うのがFRB(米連邦準備制度理事会)の前議長で1月26日に財務長官に就任したイエレン氏である。労働経済の専門家であり、中道左派に位置するイエレン氏は、上院での指名承認公聴会で、「これだけ金利が低いのだから、債務拡大を恐れる必要はない。ここは大きく財政拡張策をとるべきだ」と述べ、財政刺激策の積極活用を打ち出し、上院の大多数の支持を受け財務長官に就任した。一方、FRBのパウエル議長も米経済の正常化に向け、ゼロ金利政策と同時に米国債とMBS(住宅ローン担保証券)を購入するQE(量的緩和)政策を実施しており、1月26-27日に開かれたFOMC(米連邦公開市場委員会)後の記者会見でもQE政策の縮小議論は時期尚早と市場をけん制した。すなわち、米国も日本同様、政府が財政刺激策として発行する国債を中央銀行が購入する財政金融一体の政策展開を行うに至っているのである。

こうしたトリプルブルーシナリオ実現の下、イエレン財務長官、パウエルFRB議長による財政金融一体の強力な景気回復策に、米国株式市場は好意的な反応を示している。2020年11月3日の大統領選挙、連邦議会選挙の直後は、上院を共和党が多数を占めるねじれのほうが法人や富裕層への増税が実現せず、かえって良いとの反応だったが、シナリオが変わっても米国株式市場が好意的な反応を見せているのはどうしてか。一つ目は、昨年暮れから感染症が再び猛威を振るい経済の減速が懸念されてきたこと。二つ目は財政刺激策の大型化により景気見通しが改善していること。事実、野村の米国経済担当のエコノミストチームは1月8日、21年3月までに総額1兆ドルの新型コロナ対策法を成立させ、その後、4年間で2兆ドルのインフラ整備関連法を7-9月期に成立させると政策前提を変更した。同日、米国の実質GDP(国内総生産)成長率予想を21年が1.2%ポイント上方修正して+4.3%、22年が1.3%ポイント上方修正して+5.0%とした。三つ目は、イエレン財務長官の発言や22年秋の中間選挙を想定すると増税策は実現しないか実現してもかなり先になると判断しているということだろう。シナリオが変わったのに市場が好意的なのは単に良いとこ取りをしているだけだとの見立てもあるが、おそらく違うだろう。

企業収益はどうか。調査会社リフィニテイブのデータに基づく1月29日集計のS&P500指数構成企業のEPS(1株当り利益)予想は21年が前年比23.7%増、22年が同15.7%増であるが、3月に追加経済対策が決まり、7-9月にインフラ整備法が成立すれば、企業収益予想はさらに上方修正されよう。一方、長期金利は賃金・物価環境が停滞する中、FRBのQE政策の継続でわずかな上昇に止まろう。おそらく、米10年国債利回りは21年末でも1.3%(2月1日時点で1.08%)であろう。だとすると、予想PER(株価収益率)の低下をEPSの伸びが上回り、株価はさらに上昇する公算が高い。これは日本株にもプラスになろう。S&P500株価指数や東証株価指数は21年も5-10%の上昇を期待しうるだろう。1月最終週は、米国でSNSを利用した個別株への個人投機家の集中買い、株式価値からみて割高と判断して空売りしていたヘッジファンドの損失拡大懸念などから株価が急落したが、上記構図が見込める中では短期的な波乱にとどまろう。長期投資家には押し目買いのチャンスだろう。

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