2020~22年度の経済見通し
-「コロナ前」回帰に向けて-

論文2021年2月22日

野村證券金融経済研究所 経済調査部 美和 卓、桑原 真樹、岡崎 康平、棚橋 研悟、髙島 雄貴、新井 真、伊藤 勇輝

目次

日本経済:「コロナ前」回帰に向けて

  1. (1)総括
  2. (2)輸出は21年1-3月期に一旦減速、その後加速
  3. (3)鉱工業生産持ち直しを見込むが半導体不足の影響には注意
  4. (4)堅調な海外景気が設備投資回復を後押ししよう
  5. (5)雇用・所得環境は緊急事態宣言解除以降回復が本格化する見込み
  6. (6)個人消費は春以降明確な回復局面へ
  7. (7)住宅着工は21年1-3月期に感染第3波の影響で停滞
  8. (8)公共投資は減少トレンドへ
  9. (9)インフレ率見通しを小幅上方修正だが低インフレ基調継続は変わらず
  10. (10)「平時」への金融政策切り替えは低金利政策転換を意味せず
  11. (11)日本経済見通し
  12. (12)世界経済見通し

米国経済:ワクチン接種と景気刺激策

ユーロ圏経済:経済回復を受け金融緩和は休止へ

英国経済:BOEの予想通りなら追加緩和なし

中国経済:新型コロナ感染再拡大と戦う

要約と結論

  1. 2月15日公表の20年10-12月期GDP(国内総生産)1次速報を踏まえ、20~22年度の経済見通しを改定した。20~22年度の実質GDP成長率は、それぞれ前年比-4.8、+5.1、+2.9%と予想する。
  2. 経済見通し上方修正の背景は、国内での緊急事態宣言再発令など新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)再拡大にも関わらず、財の生産活動を中心として比較的底堅い動きが継続していることに加え、グローバルにみるとワクチン接種が開始されており、今後、公衆衛生上の制限措置が緩和されつつ経済活動の加速が見込める状況になっているためである。19暦年平均値を基準とした場合、実質GDPが「コロナ前」を上回るタイミングは21年10-12月期と、前回見通しより前倒しになると予想する。
  3. ただし、実質GDPでみた経済水準が「コロナ前」に回帰しても、その中身は従来とは異質なものとなる可能性がある。耐久消費財やネット関連消費の回復が早い一方、対面型サービス需要の回復は鈍いものとなろう。こうした需要構造の変化は、業種を跨ぐ労働移動を通じ、雇用構造を変化させうる。在宅勤務、オンライン会議普及等の働き方の変化も、報酬体系を含む労働市場の構造変化を促す可能性がある。
  4. コア(生鮮食品を除く総合)消費者物価上昇率見通しも、成長見通しの上方修正及び原油価格前提の変更を反映し、上方修正となった。20~22年度の同インフレ率はそれぞれ前年比-0.5、+0.6、+0.7%と予想する。「コロナ後」に向けての経済の構造変化も、低インフレ基調持続の一因となろう。
  5. 株式市場の堅調な上昇などを受け、コロナ禍からの経済活動の比較的順調な回復が期待しうる中での政策支援継続は、経済や資産市場の過熱をもたらすとの警戒感も浮上している。マクロ的な資金繰り支援策等のセーフティーネット(安全網)については、「出口」を迎えるべき局面が近づいているだろう。しかし、低インフレ基調持続などを反映し、日本銀行による大規模金融緩和を中心とした政策支援は、経済活動の回復後も継続されていくと考えるのが妥当であろう。