エレクトロニクス産業に復調の動き、その背景と意義

編集者の目2021年3月12日

野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー 海津 政信

野村證券金融経済研究所は、日本企業ボトムアップ業績見通しを公表した。これは2021年1月下旬から2月中旬にかけて発表された2020年度第3四半期決算を踏まえて行われた、ラッセル野村大型株ユニバース328社のアナリストの2021年3月1日時点の予想を集計したものである。それによると、20年度の連結経常利益は前回予想(20年12月1日時点)比5兆1,050億円上方修正の36兆5,280億円、21年度は同3兆500億円上方修正の46兆4,580億円の予想である。20年度の5兆1,050億円の上方修正の内訳はソフトバンクグループの投資ファンド事業の利益増を除くと自動車の1兆1,610億円、電機・精密の7,580億円の貢献が大きい。また、21年度の3兆500億円の上方修正の内訳は自動車の5,794億円、電機・精密の4,736億円、化学の6,995億円の貢献が大である。新型コロナ禍でステイホームを余儀なくされた世界の人々がモノの消費に走り、それを日本の自動車、エレクトロニクス産業等が輸出増、現地販売増、生産増、利益増につなげている姿が出ている。連結経常利益の過去最高は18年度の48兆2,000億円なので、今回の上方修正により21年度にもその水準に接近する見通しだ。

注目したいのはエレクトロニクス産業の復調である。日本のエレクトロニクス産業は90年代初めまで強かったが、90年代の半ば以降、米国企業が開発と設計に特化し、製造は台湾、中国のEMSやファンドリーを活用し、水平分業体制を敷いたことで、開発・設計から生産までを自社で行う垂直統合モデルの日本企業は民生用も産業用もコスト高に陥り、劣化していった歴史がある。もちろん、劣勢を挽回するため、液晶テレビやプラズマテレビ、さらにデジタルカメラの開発・投入などで一時的に盛り返した時期もあったが、抜本的なビジネスモデルの転換を行えず、時間を空費していた。ようやく09年以降、日立製作所がテレビ事業の撤退、ハードディスクドライブ事業の売却、半導体、液晶ディスプレイ事業の切り出し等、ソニーがテレビ、ビデオ等のエレクトロニクス事業のダウンサイズ化とゲーム、半導体イメージセンサー事業の強化、拡大といった構造改革を行い、強固な利益体質に変わってきた。電子部品、半導体製造装置等はこの間強さを維持してきたので、連結経常利益で自動車産業に追いつくところまで来ている。21年度予想で自動車が6兆5,060億円、電機・精密が6兆890億円である。

さて、米国がトランプ政権の下で5G(第5世代移動通信)基地局製造のファーウエイに制裁を科す、またバイデン政権の下で半導体生産等を国内に戻すべくサプライチェーンの見直しに乗り出すなど、中国の技術覇権への警戒感を前面に出し始めている。結局、米国は01年の中国のWTO(世界貿易機関)加盟を容認し、また水平分業体制の下で中国経済や中国企業の発展を後押ししてきたが、力を付けた中国が米国との間で体制間競争に打って出る中、中国戦略を大きく変えて来たのである。これは通信機器、半導体製造装置等の成長を通じ日本のエレクトロニクス産業にプラスとなろう。さらに言うならば、HV(ハイブリッド車)、EV(電気自動車)等の環境対策車を擁する自動車産業が強い間に、エレクトロニクス産業が復調してきたことは、自動車の一本足打法からの脱却に繋がり得る点でも意義は大きいだろう。

もちろん、エレクトロニクス産業の復調はマーケットの観点からも歓迎すべきことだ。第一に、時価総額が大きい。21年2月末で電気機器の時価総額は109.7兆円で東京証券取引所市場第一部の15.9%を占める最大セクターである。利益ウエートでは同等かやや輸送用機器のほうが大きいが、バリュエーション(株価収益率)が高いので、輸送用機器54.9兆円の約2倍の時価総額がある。第二に、利益成長力が高い。15年度から20年度予想までの5年間の連結経常利益の成長力は年11%強と高い。日本のコーポレートガバナンス改革の進展と時価総額ウエートの高いエレクトロニクス産業の復調で日本株の魅力が増すことになると良いだろう。

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