2021年6月株主総会の注目点-投資家評価に繋がるか-

編集者の目2021年4月28日

野村證券金融経済研究所 シニアリサーチフェロー 海津 政信

4月末となり2021年6月株主総会が近づいている。新型コロナウイルス(以下コロナ)の感染拡大が続く中、また東京、大阪等に緊急事態宣言が三度出される中、昨年同様出席者数を絞る、またオンラインでの開催を併用するなど、工夫した開催が望まれる。

さて、今年の株主総会の注目点はなにか。第1は取締役会の機能強化であろう。議決権行使助言会社大手のISSは、社外取締役の割合が3分の1未満の場合経営トップ(原則として社長、会長)の取締役選任議案に反対推奨を行うとしている。また、東京証券取引所から4月6日に公表されたコーポレートガバナンス・コードの改訂案でも、プライム市場上場会社において独立社外取締役の割合を3分の1以上とした上で、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする独立した指名委員会・報酬委員会の設置が望ましいとしている。

第2は政策保有株式の削減を促す動きである。ISSは政策保有株式の保有額(保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式の貸借対照表計上額)が純資産の20%以上の場合、経営トップの取締役選任議案に反対推奨を行うとしている。また、ISSと並ぶ議決権行使助言会社であるグラス・ルイスは、弾力的な判断も行うとしつつ、政策保有株式の貸借対照表計上額の合計が純資産と比較して10%以上の場合、会長(会長職が存在しない場合は社長等の経営トップ)の選任に反対助言を行うとしている。

第3はポストコロナを見据え、剰余金処分がどうなるかであろう。20年6月株主総会では、コロナ禍の先行きが全く見通せず、株主還元基準の適用を見送り、減配、自社株買い回避もやむなしという感じが強かったが、20年度の企業業績は空運、電鉄、ホテルなどを除き想定より堅調、好調であったことが分かって来ている。緊急事態宣言が出される一方、ポストコロナを見据えどういった対応が望ましいか、議論が交わされるであろう。

重要なことは企業行動が投資家評価に繋がるかどうかである。まず、社外取締役の割合を3分の1以上にする社外取締役の増員であるが、グラス・ルイスに加え、ISSも3分の1以上の社外取締役の選任を求めること、さらにコーポレートガバナンス・コードの改定案でも3分の1以上の社外取締役を求めていることから、今年の株主総会での役員選任議案では3分の1以上の社外取締役を求める動きが海外機関投資家はもとより国内機関投資家の間でも強まるものとみられる。すでに野村アセットマネジメントは20年11月より全ての上場企業に対し、3分の1以上の社外取締役の選任を求めると公表している。企業の前向きな対応を期待したい。

次に、政策保有株式についてだが、持ち合い解消がかなり進んできた状況を踏まえると、社外取締役の割合を3分の1以上とすべきという議論以上ではないだろうが、ISS、グラス・ルイスの有力助言機関が取り上げている以上、昨年より議論が進む可能性は高い。特に、保有株式の対自己資本比率が19年度末で20%以上(野村資本市場研究所調べ)と高い銀行、保険の2業種には政策保有株式削減のプレッシャーは高いだろう。役員選任議案にこの点がどう反映されるか注目される。

同時に、剰余金処分についての議決権行使も注目が怠れない。確かに緊急事態宣言が出され、剰余金処分における株主還元基準の適用見送りが継続される可能性が出てきている。しかし、20年度の企業決算では、在宅勤務やオンライン授業の拡大に伴うパソコン需要の増加、5Gスマホの成長、電子商取引(EC)の成長に伴うデータセンター投資、半導体投資の拡大等でエレクトロニクス産業は好調であり、公共交通機関に代わり自動車通勤が増え、かつ環境規制の強化でEV(電気自動車)やHV(ハイブリッド車)の販売増加もあり自動車産業にも好調企業が見られるのも事実である。また、新型コロナウイルス感染症ワクチンの普及で米国のように夏までに集団免疫の獲得に近づくとの期待も出てきている。その意味では株主還元基準を適用できる企業も少なくなく、増配、自社株買いの復活もありうるだろう。投資家評価に繋がる企業行動を期待したいところだ。

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