2021~22年度の経済見通し
-足踏みするコロナ禍からの実体経済の回復-

論文2021年5月25日

野村證券金融経済研究所 経済調査部 美和 卓、桑原 真樹、岡崎 康平、棚橋 研悟、髙島 雄貴、新井 真、伊藤 勇輝

目次

日本経済:足踏みするコロナ禍からの実体経済の回復

  1. (1)総括
  2. (2)経済活動再開の「カギ」となるワクチン
  3. (3)輸出は、目先の半導体不足の影響に注意を要するが、先行きの増加余地は大きい
  4. (4)半導体不足の影響は従来想定より小さく、鉱工業生産は順調に回復しよう
  5. (5)21年前半の設備投資回復は鈍いが、その後回復ペース高まると予想
  6. (6)雇用・所得環境は安定、ワクチン接種進展による経済活動水準の上昇にあわせて回復本格化へ
  7. (7)個人消費の回復本格化は21年度後半
  8. (8)1-3月期の住宅着工は前期比大きめの増加だが、先行きの増加ペースは緩やか
  9. (9)政府消費は再加速、公共投資はピークアウトへ
  10. (10)21年度のコアインフレ率見通しを上方修正
  11. (11)政策「点検」後も現行金融政策は維持
  12. (12)日本経済見通し
  13. (13)世界経済見通し

米国経済:成長回復ペースは上限に達したか

ユーロ圏経済:ECBは資産購入ペースを判断へ

英国経済:GDPは回復するも利上げ観測は早計

中国経済:緩やかな政策正常化が進もう

要約と結論

  1. 5月18日公表の21年1-3月期GDP(国内総生産)1次速報値を踏まえ、2021~22年度の経済見通しを改定した。21、22年度の実質GDP成長率の野村予測値は、それぞれ前年度比+4.5%、+3.9%である。21年度実質成長率見通しの下方修正は、3回目の緊急事態宣言が発出されるなど、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の影響による経済活動の下押しが継続していることに加え、ワクチン接種が現時点では本格的に進捗していないことを踏まえたものである。
  2. 21年度実質成長率下方修正に最も大きく影響するのは実質個人消費の回復の遅れである。3回目の緊急事態宣言など感染再拡大の影響で21年4-6月期は、1-3月期に続き前期比マイナスを予想する。ワクチン接種進捗の遅れを踏まえ、接種を希望する一般国民全体への概ねの接種完了時期も、21年度末にずれ込むことを前提とした。足元の感染再燃やワクチン接種遅延を受け、Go To トラベルキャンペーン再開時期も従来想定から半年遅れの21年10月を前提としたこともあり、個人消費持ち直しのタイミングも後ずれすることを見込む。現下の世界的な半導体不足を反映した自動車を中心とする供給制約の影響などから、目先については実質輸出、実質設備投資の見通しをやや引き下げた。しかし、米国、中国における経済活動再開加速や、コロナ禍においても堅調な電子・通信機器需要、自動車需要を反映し、実質輸出や実質設備投資は基調的に堅調な推移を予想している。
  3. コア(生鮮食品を除く総合)消費者物価上昇率でみたインフレ率については、コロナ禍での需要減少が必ずしも積極的な値下げ行動に結び付いていないことに加え、海外経済の力強い回復期待などを反映した原燃料市況上昇の影響が波及すると見込まれることから、緩やかな持ち直しを続けると見込む。21、22年度のコア消費者物価前年比は、それぞれ+0.9%、+0.9%と予想する。21年4月から大手携帯通信事業者がスタートしたオンライン専用型格安料金プランが消費者物価指数に反映されることで、21年度のコアインフレ率前年比を0.6%ポイント程度下押しするが、原燃料市況上昇のインフレ押上げ効果がそれを上回ると予想する。