新型コロナ禍の中、快走見せるグローバル製造業

編集者の目2021年6月14日

野村證券金融経済研究所 シニアリサーチフェロー 海津 政信

遅れていた新型コロナ感染症のワクチン接種がようやく軌道に乗ってきている。かく言う私も6月7日、大手町の自衛隊大規模接種会場で米モデルナ製のワクチンの1回目の接種を受けてきた。受付、検温、身分証明書の提示などの後、医務官から問診を受け、看護官から筋肉注射を打ってもらった。その後2回目の接種の予約を入れ15分ほど休憩を取り、30分ほどで接種会場を後にした。幸い副反応はほとんど出ず、早めに接種できたことに感謝した次第である。

マクロの数字も紹介しよう。6月12日現在、1回でもワクチン接種した人は全国で1,720万人と全人口1億2,536万人(総務省推計、2021年5月1日現在)の13.7%に達している。この数字を部分接種率と呼ぶが、このペースで接種が進むと6月末には部分接種率は20~25%まで上昇しよう。先行して接種が進んでいる欧米、特に日本と同様に春に第4波の感染拡大を経験しているドイツ、フランスの例をみると部分接種率が20%に達した前後から新規感染者が急減少する傾向が見える。東京2020オリンピック・パラリンピックの開催に慎重な意見があるが、ワクチン接種が軌道に乗って来た点を踏まえると、開催の可能性は高いとみられる。

さて、新型コロナ禍で社会、行政機関のデジタル化の遅れ、医薬品企業による国産ワクチンの実用化の遅れ、国や都道府県の権限不足による医療資源の有効活用の難しさなどの弱さが表面化した日本にあって、数少なく強さを見せているのが自動車、エレクトロニクス等のグローバル製造業である。野村證券金融経済研究所の企業アナリストによる「日本企業ボトムアップ業績見通し集計」(6月7日掲載)がそれを雄弁に物語っている。

具体的には、ラッセル野村大型株ユニバースに採用される製造業173社の20年度の連結経常利益は、リーマンショック並みのマクロ不況の中でも、18兆6,130億円と19年度比7.6%の増益を達成した。また、21年度の連結経常利益は25兆1,890億円と20年度比34.7%の大幅増益が見込まれ、一気に過去最高利益の17年度の23兆8,550億円を更新する見通しである。とりわけ好調なのが、電機・精密セクターで20年度の連結経常利益は5兆6,220億円と18年度の過去最高水準5兆6,410億円に迫り、21年度には6兆4,990億円と過去最高利益更新の見通しだ。ついで、自動車セクターも好調で21年度には7兆960億円と18年度水準を超え、15年度の過去最高利益(7兆5,710億円)に近づく見通しだ。

このグローバル製造業の好調の背景には、(1)新型コロナ感染症の抑え込みに成功した中国やワクチン接種が進展し本格的な景気回復を見せる米欧の財需要の増加を取り込めていること、(2)中国、米国、欧州の財需要の好調を受け、国内外で民間設備投資の回復が始まっていること、(3)日米金利差の拡大につれドル堅調、円安傾向にあり、国際競争力が発揮できていることがある。

加えて、電機・精密には、テレワークの拡大やオンライン授業の普及に伴うPC需要の拡大やテレビ、ゲームなどの巣籠需要の増加、オンラインショッピングの普及等に伴うデータセンター投資の拡大、5G(第5世代移動体通信)基地局の建設や5G対応スマホの成長、車載用半導体・電子部品の成長、これらに関わる半導体製造装置の成長といったセクター固有の好環境もプラスに作用している。また、自動車には、日系自動車メーカーのシェアが高い米国販売の急回復とそれに伴う在庫不足、中古車価格の上昇、新車インセンティブ(値引き)の縮小、さらに環境規制の強化に伴うHV(ハイブリッド車)の中国、欧州市場での拡販などの好条件もある。

もちろん、電機・精密には、デジタルカメラやコピー機などの事務機分野の成熟といった問題があるし、自動車にはEV(電気自動車)の台頭に伴う水平分業化の動きにどう対抗するかなど中長期の課題は数多い。とはいえ、足下の快走は利益、キャッシュフローの増加を通じ、課題解決能力を高めてくれる。株式市場でも評価する動きが広がることが期待されよう。

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