ポストコロナ時代の5つのメガトレンド

編集者の目2021年8月5日

野村證券金融経済研究所 シニアリサーチフェロー 海津 政信

新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が進み、8月3日現在、全国民のうち44.7%の人々が1回目の接種を済ませ、31.5%の人々が2回目の接種を済ませている。変異型ウイルスがその時期を先送りするリスクはあるものの、このペースで接種が進むと今年10月から11月には全国民の70%の人々が2回接種を済ませ、いわゆる集団免疫の獲得に近づくものと期待される。このように新型コロナウイルス感染症の終息を期待しつつ、ポストコロナ時代の経済社会のメガトレンドは何か。本稿ではこの点について述べてみたい。

第1は、資本主義のありようの変化、つまり「ROE偏重の新自由主義」から「ROEとESG両立の新修正資本主義」へという事だろう。1980年代のレーガン米大統領、サッチャー英首相から始まった新自由主義の流れの中で資本の効率を示すROE(自己資本利益率)重視が始まったのだが、これが行き過ぎてROE偏重になったことがある。もちろん、日本だけとると資本コストに見合うROEを上げていない企業も少なくないので、ここまでいう必要があるかとも思うが、米国等を念頭に置くとROE偏重気味で、例えば、ROE15-20%目標とか、借金をして自社株を購入する等、行き過ぎた面もあったように思う。それが「ROEとESG両立の新修正資本主義」へと変化する。企業は資本コストを上回るROE(最低でも8%、できれば10%以上)を達成するとともに気候変動等ESG(環境・社会・ガバナンス)にも配慮した経営を行うことが不可欠だ。投資の世界でも新型コロナが進行したこの2年でESG関連投資がかなり大きなウエートを占めるようになってきている。資本主義は何回かにわたり修正を繰り返してきたが、今回もモデルチェンジが必要だ。

第2は、「金融政策中心の政策運営」から「格差配慮の財政・税制・金融政策」であろう。日本は財政政策もかねて金融政策と組合せて使っているが、米国はこれまで金融政策中心の政策運営で、貨幣供給の増加により住宅等資産価格を押し上げ過ぎた面がある。その金融政策は雇用の拡大を確認した後、量的緩和策の縮小、ゼロ金利解除へと金融市場と対話しながら出口に向かおう。また、バイデン米政権は経済の底上げに繋がるインフラ投資増を打ち出し、かつ個人所得税の最高税率の引き上げ、下げ過ぎた法人税率の小幅引き上げ等を検討し始めている。金融政策に、財政政策、税制変更も使い、経済のバランス回復に配慮する方向だ。

第3は、「トランプ大統領主導の米中対立」から「バイデン大統領提唱のG7と中国の対立」だろう。最近の香港、ウイグル問題等、習近平政権の政策はいささか強硬で、かつ2017年の共産党大会あたりから鄧小平主義を棚上げし、毛沢東主義に戻ることを習近平総書記が行い始めたことで、民主主義対権威主義の体制間競争という側面が強くなってきている。先般英国で行われたG7サミット(主要7カ国首脳会議)でもバイデン米大統領が提唱し日本も後押しする中で欧州もこの輪に加わる格好となり、G7と中国との対立はかなり先鋭的になっている。また、習近平政権の国有企業重視は中長期で債務拡大という帰結に繋がると思われ、新興IT企業への統制強化は経済の活力を徐々に落としていくだろう。こうして予想される潜在成長力の低下は、経済安全保障と合わせ企業経営にも大きな影響を与えよう。

第4は、「デジタル革命」から「デジタル&グリーン革命」への変化である。コロナ前からデジタル革命は「第4次産業革命」という形で進行してきていたが、EU(欧州連合)の気候変動重視政策に、政権交代を通じ日米が参加する形でグリーン革命が加わる格好だ。このデジタル革命とグリーン革命が産業のありようを大きく変えていくことははっきりしている。産業、企業の優勝劣敗にも繋がるとの認識が大事だろう。

第5は、新型コロナ前の「オフィスワーク主体」から新型コロナ後は「オフィスワーク・テレワーク融合」となろう。ワクチン接種の進捗に伴い、徐々にテレワークからオフィスワークに戻っていくと思うが、テレワークがゼロになることはないだろう。一方、テレワーク主体ではコミュニケーションの問題、組織に対する帰属意識が薄れるという問題がある。新型コロナ後はそれぞれの企業、企業の中でも部署によってオフィスワークとテレワークの適切な組合せが模索されよう。

以上、5つのメガトレンドを指摘した。企業経営や株式投資は経済社会を映す鏡である。どこにビジネス機会やリスクがあるか、株式投資にどう応用するか、夏休みを使い考えてみたい。

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