2021~23年度の経済見通し
-経済活動再開に向けた道標-

論文2021年8月20日

野村證券金融経済研究所 経済調査部 美和 卓、桑原 真樹、岡崎 康平、棚橋 研悟、髙島 雄貴、伊藤 勇輝

目次

日本経済:経済活動再開に向けた道標

  1. (1)総括
  2. (2)輸出を巡る不透明感は強いが増加基調は維持
  3. (3)製造業活動は回復軌道維持も先行きに不透明感
  4. (4)設備投資は7-9月期に減少を見込むが一時的と判断
  5. (5)雇用環境は4-6月期に悪化したが先行き緩やかに改善と予想
  6. (6)個人消費は夏場一進一退、その後本格回復を予想
  7. (7)住宅投資はしばらく堅調、長期的には減少へ
  8. (8)公共投資は補正予算で積み増しへ
  9. (9)政府消費:関心はワクチンからGo To トラベル再開時期へ
  10. (10)インフレ率のモメンタム(勢い)は緩やかながら回復を維持
  11. (11)現行金融緩和は長期化、気候変動対策では将来的な見直しの余地を確保
  12. (12)日本経済見通し
  13. (13)世界経済見通し

米国経済:経済活動再開の勢い一巡後に注目

ユーロ圏経済:ECBのハト派姿勢は変わらず

英国経済:利上げから間もなく中銀資産縮小へ

中国経済:年後半は景気が顕著に減速へ

要約と結論

  1. 21年4-6月期GDP(国内総生産)1次速報を踏まえ、21~22年度の経済見通しを改定するとともに、新たに23年度の予測値を作成した。実質GDP成長率の予測値は、21~23年度につき、それぞれ前年比+3.9%、+4.1%、+1.3%である。なお、23年度実質成長率は、統計上のゲタ(+0.7%)を差し引くと、ゼロ%台後半とみられる潜在成長率にほぼ収斂する。新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の影響を脱する過程でのペントアップ(繰越)需要は、22年度でほぼ一巡し、経済成長が巡航速度に回帰するという点で、コロナ禍からの出口への到達が視野に入ると予想する。
  2. 今回の見通し改定のポイントの一つは、繰り返されるコロナ感染流行の影響評価であった。7月以来の国内での感染第5波は、21年7-9月期の景気回復を停滞させる公算が大きい。一方、ワクチン接種については、従来の野村想定通り、10月中旬に全人口比70%の2回接種完了を達成できるとみている。2回接種完了による重症化予防効果はほぼ揺るがないとみられ、国内家計消費がサービス需要を含め加速に向かうタイミングは、従来通り21年10-12月期になるとの見方を維持する。足元では海外でのコロナ感染再燃を背景に、経済活動再開プロセスが頓挫し、グローバル景気が悪化に向かうとの懸念も生じている。しかし、ワクチン接種の新興国・地域への拡大を通じ経済活動再開が広がりをみせる可能性、経済活動再開と連動した国内外での設備投資の拡大余地を踏まえると、輸出、設備投資等の企業関連需要拡大には、なお持続性があると考えられる。
  3. 21~23年度のコア(生鮮食品を除く総合)消費者物価(2020年基準)上昇率はそれぞれ前年比-0.1%、+0.7%、+0.4%を予想する。基準改定に伴う実績値下振れの影響を除けば、エネルギーによる押し上げ、経済活動再開に伴う需給ギャップ改善を反映し、緩やかながらインフレ率のモメンタム(勢い)が回復していくとの見方は不変である。
  4. 日本銀行の金融政策は、「より効果的で持続的な金融緩和を実施するための点検」によって、低インフレ環境長期化への対応を済ませた格好であり、インフレ率の回復基調が維持できている限り、追加的な政策対応がとられる可能性は低いと考えられる。長引くコロナ禍や政権支持率低迷は、財政出動大型化の誘因になりうるが、20年度中に決定された補正予算について、未使用分の累増や執行の遅れが指摘されており、経済対策や予算措置を大型化させる余地も限られると考えている。