米国を中心にさらに進展する『ETF革命』の行方と日本

編集者の目2021年8月24日

野村資本市場研究所 常務 関 雄太

モーニングスターの調査によれば、2021年7月末時点でETF(上場投資信託)のグローバルAUM(Asset Under Management:運用資産残高)は9兆ドルを突破した。ETFの市場規模は、インデックス投信のグローバルAUMに肩を並べつつあり、資金流入のスピードから考えて、2021年中の逆転もあり得る状況となっている(米国市場に限ってみれば2019年にETFとインデックス投信のAUMが逆転した)。

こうした中、直近のAUM約6.5兆ドルと、相変わらず圧倒的な規模と成長性を持つ米国ETF市場において、いくつかの潮流が発生している。

特に注目されるのは、アクティブETFの増加である。2019年に、保有銘柄や純資産価値(NAV)を日次で開示しないセミトランスペアレント(不透明)型のアクティブETFが認められたことなどで本数が増加している。また、電気自動車(EV)を始めとしたイノベーション関連銘柄に集中投資するテーマETF(Thematic ETFs)の人気化も、アクティブETFの資産増大に寄与した。

アクティブETFのAUMはまだ0.5~0.6兆ドルで、米国ETF全体に占めるシェアは10%弱に過ぎないとは言え、今後、投資信託(ミューチュアルファンド)も巻き込んで、米国資産運用ビジネス全体に大きな変化を起こしていく可能性がある。というのも、最近の米国ETF市場においては、個人投資家の存在感が高まっており、なかでもアプリ専業証券の提供するプラットフォームを活用して少額・高頻度の取引を行う小口投資家が増えているからである。数十から数百社の銘柄バスケットを、一般の投資信託よりも小さな投資単位で購入できるETFは、元来、株式投資の究極の小口化商品とも言えるわけだが、ハイテク銘柄やミーム銘柄(SNS上での話題などをきっかけに急激に人気化する銘柄)に惹かれることが多いとされるZ世代(1990年代中盤以降に生まれた人口階層)にとっては、アクティブETFがより魅力的な投資手段に見える可能性が高い。

また、最近までETFに参入していなかった大手運用会社が、既存の運用チームのリソースを活用でき、運用報酬も伝統的なインデックスETFに比べ若干高く設定できるアクティブETFに続々と参入している。さらに2021年に入って、ディメンショナル・ファンド・アドバイザーズやJ.P.モルガン・アセット・マネジメントなどは、既存のアクティブ投信のETFへの転換(コンバージョン)を発表している。こうした状況が続けば、ETFはインデックス投信の代替もしくは派生としての位置づけに止まらず、アクティブ投信が担ってきた領域の資金も獲得していくことになるのかも知れない。その一方で、低コストなどETFの従来の特質が変化したり、一部のETFへの資金流出入が特定銘柄の株価変動要因になるといった、従来あまり予想されていなかった金融市場への影響が顕在化したりする可能性もある。

さらに、ETF市場の成長拡大を促す別の推進力も指摘されている。第一に債券ETF、とりわけ社債ETFの拡大である。個人投資家の需要を捉えるアクティブETFとは対照的に、社債ETFでは流動性や分散効果を期待する機関投資家がプレゼンスを高めており、最近では保険会社が会計ルールの変更を機に社債ETF投資を拡大するなど、裾野はさらに拡がっている。また、金融危機後の規制改革の影響でディーラーによる現物社債のマーケットメイキング機能が低下していく中で、社債ETFが米国クレジット市場の中で果たす役割が重要性を増したとも指摘されており、低金利環境が継続するならば、社債ETFへの投資はさらに拡大する可能性もある。

もう一つの推進力として注目されるのは、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資とETFとの結びつきである。ESG評価の高い企業の株式・社債を選別して投資するポジティブ・スクリーニング手法が採りやすいこと、「グリーン・ビルディング」や「ジェンダー平等」などフォーカスを効かせたテーマETFが続々と組成されていること、新規資金流入の面でETF市場を牽引する若年層個人投資家の大半がESG投資への強い関心を示していることなどがESG-ETFsにとって追い風になると見られている。ESG-ETFsについては、米国以外の地域でも普及・拡大が期待されている。

一方、日本では、2001年に現物出資型のETF(上場投資信託)組成を可能とする投資信託法施行令・関連税法の改正が行われ、東京証券取引所に本格的なETF市場が形成されてからちょうど20年が経過した。純資産残高は60兆円近くに達しているが、日本銀行が金融政策の一環として購入したものが大半であり、市場規模、ETFプロダクトの多様性、投資家への浸透度など、あらゆる面で米国とは水をあけられた状況である。資本市場の活性化や個人金融資産の運用高度化といった社会課題を解決すべく、ETFという金融イノベーションを使い倒す工夫と努力が、今後の日本の市場関係者に求められることは間違いない。

[参考文献]
  • ・岡田功太「拡大する米国の社債ETF市場」『野村資本市場クォータリー』2021年夏号
  • ・関雄太「ETFとTDF:21世紀最大の金融イノベーション」財界観測(2019年5月31日)
  • ・野村アセットマネジメント『ETF大全』日本経済新聞出版社(2021年5月)
  • ・Michael Wursthorn, "Global ETF Assets Hit $9 Trillion", Wall Street Journal, August 12, 2021

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