2021~23年度の経済見通し
-「コロナ後」に向けたハードル-

論文2021年11月22日

野村證券金融経済研究所 経済調査部 美和 卓、桑原 真樹、岡崎 康平、棚橋 研悟、髙島 雄貴、伊藤 勇輝

目次

日本経済:「コロナ後」に向けたハードル

  1. (1)総括-経済活動完全正常化に向け乗り越えるべき壁
  2. (2)供給制約緩和と連動し輸出は再加速へ
  3. (3)10-12月期も供給制約が重石となる製造業活動
  4. (4)22・23年度の設備投資需要は堅調と予想
  5. (5)雇用環境は21年10-12月期以降回復へ
  6. (6)家計給付や供給制約の緩和が民間消費の回復を後押し
  7. (7)住宅投資は減少トレンドへ
  8. (8)実質公共投資は減少基調が継続
  9. (9)Go To トラベル再開で政府消費は年明けから増加へ
  10. (10)インフレ見通し上方修正も低インフレ持続との判断は維持
  11. (11)円安を受け修正の思惑高まる金融政策
  12. (12)日本経済見通し
  13. (13)世界経済見通し

米国経済:新型コロナ支援策を終了へ

ユーロ圏経済:ECBは世界の金融引き締めトレンドに逆行

英国経済:利上げに向けた地ならし

中国経済:二重ショックのなか成長が一段と鈍化

要約と結論

  1. 11月15日公表の2021年7-9月期GDP(国内総生産)1次速報値を踏まえ、2021~23年度の経済見通しを改定した。実質GDP成長率の予測値は、21~23年度につき、それぞれ前年比+2.6%、+4.3%、+1.2%である。
  2. 21年度実質成長率見通し下方修正の主な背景は、1)新型コロナウイルス(以下、コロナ)感染症第5波の影響による国内民間消費の落ち込み、2)半導体不足など供給制約に起因する輸出、設備投資の減少、に代表される21年7-9月期までの実績値下振れの影響である。ただ、2)については、同10-12月期にかけても影響が残存する可能性が高く、これも経済成長回復を遅らせる要因になるとみている。
  3. 海外経済がコロナ禍からの正常化を進めるにつれ、コロナ禍に起因する需給不適合を背景とした供給制約は徐々に解消に向かい、特に、日本の輸出や設備投資の回復の障害となる財生産の停滞は解消されていくとみる。国内では、米英を中心に確認される労働参加率の回復の遅れに伴う労働供給の制約も限定的である。一方、近年のいわゆるインバウンド需要急増を支えてきた海外からの外国人訪日など人の往来については、ワクチン・パスポートなど往来再開の条件となる制度的な手当がハードルとして残る可能性がある。今回の野村予測では前提として織り込んでいないが、もちろん、感染再燃リスクも経済活動完全正常化への障害となりうる。
  4. 現下グローバルに高まっている、供給制約や原燃料市況高騰に起因するインフレ圧力の波及を受け、国内のインフレ率も上昇に向かうと予想する。コア(生鮮食品を除く全国総合)消費者物価の前年比上昇率予測値は、21~23年度につきそれぞれ+0.0%、+1.2%、+0.6%である。海外諸国・地域で確認されているような、中央銀行のインフレ目標値を超えるようなインフレ率が一時的にせよ実現する可能性は低いと判断する。