2021~23年度の経済見通し
-海外主要国・地域と乖離する日本のインフレ、金融政策-
論文2022年2月22日
野村證券金融経済研究所 経済調査部 美和 卓、岡崎 康平、髙島 雄貴、伊藤 勇輝
目次
日本経済: 海外主要国・地域と乖離する日本のインフレ、金融政策
- (1)総括
- (2)輸出:海外景気持ち直しを背景に輸出は高めの伸び
- (3)鉱工業生産指数:供給制約は残るも大きく回復
- (4)設備投資:堅調との見方を維持
- (5)雇用・所得: 感染再拡大により停滞感が強まると予想
- (6)民間消費:感染第6波で22年1-3月期は前期比減少へ
- (7)民間住宅:資材価格高騰の影響が顕著
- (8)公共投資:予算執行に遅れ?
- (9)政府消費:ワクチン接種等で今しばらく高水準維持へ
- (10)物価:エネルギー価格再高騰でインフレ見通しを引き上げ
- (11)金融政策:海外主要中央銀行と乖離する政策の方向性
- (12)日本経済見通し
- (13)世界経済見通し
米国経済:FRBのタカ派姿勢へのシフトが続く
ユーロ圏経済:インフレで早期利上げのリスク高まる
英国経済:市場の金利期待は行き過ぎか?
中国経済:政府の「痛み」の閾値にほぼ達した
要約と結論
- 2月15日公表の21年10-12月期GDP(国内総生産)1次速報を踏まえ、2021~23年度の経済見通しを改定した。実質GDP成長率の予測値は、21~23年度についてそれぞれ前年比+2.5%、+4.4%、+1.6%である。
- 今回の見通し改定においては、21年10-12月期の実績値の反映に加え、22年に入ってからの新型コロナウイルス(以下、コロナ)感染再拡大の影響、供給制約長期化の影響などを勘案した。22年1-3月期実質GDPは前期比年率+0.2%と、前期からの成長鈍化がより顕著になると予想する。
- ワクチンのブースター(追加)接種進捗によるコロナ感染抑制効果、供給制約の緩和による挽回生産拡大などを反映し、22年4-6月期以降は、経済活動再開が本格化すると予想する。実質GDP水準がコロナ前(19暦年平均値)を上回るタイミングは、22年4-6月期となろう。
- 日本政府は、欧米主要先進国・地域と比べ、コロナ感染対策の緩和に対しては慎重であるとみられる。この点を考慮し、また、Go To トラベルキャンペーン再開(5月連休明けから11月末までを想定)時の国内旅行者の需要増加による供給逼迫の可能性も勘案し、インバウンド(訪日外国人)観光受け入れの本格再開は、22年12月以降になると想定した。この想定よりも早いタイミングで政府による感染対策の緩和が進めば、経済成長に対しては上振れ要因となろう。一方、現下の世界的インフレ加速や金融引き締め前倒しを反映した金利上昇が海外経済の成長を著しく鈍化させた場合、野村見通しに対する下振れリスクとなりうる。
- 原油価格想定の上振れなど世界的インフレ圧力の高まりを反映し、コア(生鮮食品を除く総合)消費者物価上昇率の見通しは全般に上方修正した。21~23年度の前年比はそれぞれ+0.1%、+1.6%、+0.8%である。しかし、四半期でみた前年比ピークとなる22年4-6月期でも上昇率は同+1.8%と、2%の物価安定目標には到達しない。世界的なインフレ圧力の高まりを受けた主要中央銀行による金融引き締め前倒しの動きにもかかわらず、日本銀行が金融政策の正常化に向け動き始める可能性は低いと判断される。