物価環境、資産運用環境を変えるグリーン革命

編集者の目2022年3月9日

野村證券金融経済研究所 シニアリサーチフェロー 海津 政信

原油価格の高騰が進んでいる。3月8日時点でWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物期近物価格は乱高下した後終値で1バレル123.70ドル、北海ブレント原油先物期近物価格は同127.98ドルと2012年以来の120ドル到達である。ウクライナ紛争がその背景にあるのは間違いない。すなわち、ロシアのウクライナへの侵攻でG7(先進7カ国)各国がロシアに厳しい経済制裁を課し、ロシアからの原油、天然ガスの輸出が滞るとの懸念が出ているからである。経済制裁にはロシア中央銀行が外貨準備を利用することを制限し、国際的な決済システムSWIFT(国際銀行間通信協会)からのロシアの銀行除外などがあるが、米国がロシアからの原油輸入を禁止すると決め、一気に警戒感が高まった。

しかし、ウクライナ紛争が始まる前にWTI原油先物期近物価格は1バレル90ドル程度に達していた。根っ子にあるのはグリーン革命が資源価格高に繋がるという見立てだ。2050年にCO2(二酸化炭素)の排出を実質ゼロとするカーボンニュートラルを目標に掲げ、太陽光、風力などの自然エネルギーを積極的に活用することをグリーン革命と呼び、欧米の投資家はエクソン・モービルなどの石油企業に新規投資を見合わせるよう働きかけているが、2030年、35年に石油を使わないですむことはないだろう。このミスマッチが原油価格高に繋がっているのである。だとすると、ウクライナ紛争が終わっても原油価格は高止まる可能性があるということになる。

では他の物価上昇要因はどうか。米国の22年1月のコアCPI(食料品とエネルギーを除く消費者物価)上昇率は前年比6.0%だが、最も大きな貢献をしているのは中古車、新車の自動車価格の上昇であり、次いで家賃関連となっている。自動車は車載用半導体の不足などで生産が需要の回復に全く間に合わず価格上昇が顕著である。家賃も経済再開や主要都市圏への流入人口の増加などから根強い上昇が続いている。賃金上昇はどうか。22年2月の米雇用統計では平均時給は前月比ほぼ横ばいながら、前年比では5.1%上昇となっている。労働参加率は回復してきているとはいえ新型コロナ前より低く労働需給はタイトな状況にある。米国野村によるとコアCPI上昇率は22年第4四半期でも前年比4.6%が見込まれている。

物価上昇率が高いのは欧州も同じだ。22年2月のユーロ圏の消費者物価上昇率(エネルギーを含む)は速報値で前年比5.8%に達している。賃金は米国ほどではないが、失業率が下がるにつれ徐々に上がっていくだろう。さすがに日本の消費者物価上昇率は米欧ほどではなく、22年1月に生鮮食品を除く指数が前年比0.2%だが、携帯電話料金の値下げによる影響が薄まる春には同2%に近づく可能性がある。もちろん、日本の物価の実力が2%とは思わないが、自動車などのグローバル製造業は海外で値上げを行っている。その利益分を使い国内で賃金を上げるというケースも出てくるだろう。国内でも電気・ガス代に加え食品、外食などで値上げが見られる。このように見てくると、新型コロナ危機を境にディスインフレ的な経済環境は米国、欧州、日本の順で変わり、最終的には終わっていく可能性がある。

こうなると資産運用も変わるだろう。20年2月の編集者の目「アベノミクス7年間の通信簿、GPIF改革に学ぶ」でも取り上げたが、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は2014年にデフレ環境がアベノミクスを通じ変わっていくことを前提に債券運用を減らし、株式運用を増やし成功してきた。個人の資産運用も中長期で変わっていくことが期待される。我が国の家計金融資産は21年9月末で1,999.8兆円と2,000兆円に迫るが、このうちほとんど利子を生まない現預金に1,072兆円、54%が張り付いている。一方、株式等は218兆円、11%にとどまり、米国の4割はもとより欧州の2割と比べても格段に低い。日本株もコーポレートガバナンス改革が進み、利益成長を通じ年5%程度の投資リターンが期待できる。仮に欧州並みの20%、400兆円まで株式資産を増やすと9兆円((400-218)×0.05)の金融所得が追加的に生れる計算だ。22年度からは高等学校で金融・経済教育が本格的に始まる。日本人のモノづくりを尊ぶ心はもちろん維持したら良いが、金融・経済教育も活用し資産運用を少し積極化し金融所得を増やすともう少し豊かになれるだろう。22年度を前にぜひ考えたいテーマだ。

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