2022~23年度の経済見通し
-拮抗する上下双方向のリスク-

論文2022年5月25日

野村證券金融経済研究所 経済調査部 美和 卓、岡崎 康平、髙島 雄貴、伊藤 勇輝

目次

日本経済:拮抗する上下双方向のリスク

  1. (1)総括
  2. (2)輸出:中国景気の悪化や供給制約の再燃を受けて目先の輸出は伸び悩もう
  3. (3)鉱工業生産:中国のロックダウンで目先は再び減産へ
  4. (4)設備投資:年後半の高い成長率の牽引役になろう
  5. (5)雇用・所得:労働需給の逼迫と賃金改善は今後も続こう
  6. (6)民間消費:人出の回復とともに4-6月期は反発を予想
  7. (7)民間住宅:駆け込み「的」な反発の可能性
  8. (8)公共投資:第2次補正予算での積み増しはあるか
  9. (9)政府消費:コロナ要因による押上げが徐々に剥落へ
  10. (10)物価:食品値上げなどを背景にインフレ見通しを引き上げ
  11. (11)金融政策:日銀政策修正は突然行われるのか?
  12. (12)日本経済見通し
  13. (13)世界経済見通し

米国経済:FRBの議論の焦点が変化

ユーロ圏経済:利上げ開始が近づく

英国経済:利上げの前倒しと早期終了を見込む

中国経済:オミクロン株感染急増とゼロコロナ政策が成長への逆風に

要約と結論

  1. 5月18日公表の22年1-3月期GDP(国内総生産)1次速報値を踏まえ、2022~23年度の日本経済見通しを改定した。実質GDP成長率は、21年度(実績)の前年比+2.1%に対し、22、23年度がそれぞれ同+3.2%、+1.7%になると予測する。前回4月5日時点の見通しとの比較では、21年度実績が0.2%ポイント上振れたのに対し、22、23年度はそれぞれ0.4%ポイント、0.1%ポイントの下方修正となる。
  2. 22、23年度実質経済成長見通しが前回比下方修正となる主因は、実質輸出の下方修正である。実質輸出の前年比は22年度について前回比2.7%ポイントと比較的大幅な下方修正となる。従前の半導体不足を中心とする供給制約の影響が長期化しているほか、「ゼロコロナ戦略(厳格な感染対策)」に起因する中国の経済成長下振れの影響が現れてくると予想する。輸出下振れは、輸出との連動性の高い実質設備投資(22年度前年比が前回比2.7%ポイント下方修正)にも影響すると予想する。
  3. 日本経済全体では、感染症禍からの経済活動再開の影響が実質民間消費を押し上げる形となり、22年4-6月、7-9月期においては実質GDPが前期比年率で+5%を上回る高めの成長を記録すると予想する。しかし、中国のゼロコロナ戦略長期化に加え、金利上昇やインフレ加速に起因する海外経済の想定以上の成長鈍化や、国内での「体感物価」上振れに起因する家計心理、購買意欲の下押しなど、スムーズな経済活動再開を妨げる下方リスクも山積していると野村では考えている。
  4. コア(生鮮食品を除く総合)消費者物価上昇率は、22、23年度においてぞれぞれ前年比+2.4%、+0.9%を予想する。前回見通し比では、22年度が0.2%ポイントの上方修正である。四半期ベースで前年比がピークとなる22年7-9月期の上昇率も、前回見通し比0.2%ポイント高い+2.6%に達すると予想する。一方、2%超えるコアインフレ率は、経済活動再開に後押しされた経済の持ち直し基調の下でも定着しないと判断される。日本銀行も概ね同様の見通しを有しているとみられることから、コアインフレ率が2%を上回っても、現行の金融緩和政策が変更される可能性は低いと考えられる。