2022~24年度の経済見通し
-2023年前半の中弛みを乗り越えて回復継続-

論文2022年8月19日

野村證券金融経済研究所 経済調査部 森田 京平、美和 卓、岡崎 康平、髙島 雄貴、伊藤 勇輝

目次

日本経済: 2023年前半の中弛みを乗り越えて回復継続

  1. (1)総括:2024年に向けて回復継続を見込むも、日銀のYCC調整には至らず
  2. (2)輸出:供給制約緩和もグローバル景気後退が重石に
  3. (3)鉱工業生産:供給制約に左右された4-6月期
  4. (4)設備投資:設備投資意欲は堅調だが、供給制約がボトルネック
  5. (5)雇用・所得:雇用所得の回復は先行きも維持されよう
  6. (6)民間消費:リオープンと海外景気鈍化による影響が入り混じる
  7. (7)民間住宅:資材高緩和により緩やかに持ち直していく見込み
  8. (8)公共投資:注目される防衛関係費の予算計上
  9. (9)政府消費:7-9月期も感染再拡大により高止まる見込み
  10. (10)物価:22年年末までコアCPIの前年比加速が続こう
  11. (11)金融政策:2024年に向けてYCC据え置きがメインシナリオ
  12. (12)日本経済見通し
  13. (13)世界経済見通し

米国経済:高インフレと成長減速

ユーロ圏経済:景気後退の影が広がる

英国経済:成長減速のなか、利上げ加速へ

中国経済:22年後半の景気は回復するも過熱には至らず

要約と結論

  1. 4-6月期GDP統計(1次速報)発表を踏まえ、野村では日本経済の見通しを改定した。また今回、新たに24暦年、年度を見通し期間に加えた。改定後の見通しでは、実質GDP成長率(前年度比)は22年度+1.5%(前回見通し+2.2%)、23年度+1.4%(同+0.6%)、24年度+1.4%となり、回復が複数年にわたって続くシナリオが描かれている。景気のパターンとしては、23年前半が正念場となりそうだ。特に、(1)個人消費の鈍化、(2)モノの輸出に対するブレーキ、(3)公共投資の下振れ、などが警戒される。こうしたリスクを横目に見ながらも、(i)賃金の伸び、およびコロナ下での経済活動再開を背景とするサービス消費の底堅さ、(ii)インバウンド需要の改善に象徴されるサービス輸出の回復、(iii)交易条件の悪化でむしろ意義が増すデジタル・省力化投資などを背景に、緩やかな回復が24年に向けて続くと野村ではみている。
  2. 我々は、コアCPI(消費者物価指数:生鮮食品を除く総合)で評価したインフレ率(前年度比)を22年度+2.4%(前回見通し2.4%)、23年度+0.8%(同+1.0%)、24年度0.0%とみる。4月以降、前年比2%を超えているインフレ率も、エネルギー価格による押上効果が剥落することで24年に向けて低下しそうだ。今後のインフレを見通すうえでは、(1)供給制約による部分、(2)実体経済の強弱で醸成される部分の識別が問われる。野村がインフレ率の低下を見込む背景は(1)の剥落にある。一方、24年に向けた景気回復継続シナリオの下、需給ギャップも24年にはプラス(需要超過)に転じると見込む。(2)を反映しやすいコアコアCPI(アルコール以外の食料・エネルギーを除く総合)はゼロ%台半ばで推移しよう。この意味でデフレの再来ではない。
  3. 日本銀行が目指している安定的な2%インフレは、景気が良くなった結果としての2%インフレではない。景気が良かろうが悪かろうが、通奏低音のごとく2%が意識されて物価が形成されている状態を指す。これはフィリップス曲線の切片(需給ギャップがゼロの時に実現するインフレ率)が2%近辺にある状態と言い換えられる。日本経済はこの状態には程遠い。日銀がYCC(イールドカーブ・コントロール)の調整に打って出る姿は、24年に向けてメインシナリオに入らない。