付加価値増大を目的としたデジタル・トランスフォーメーションにおける人材戦略とクラウド活用の重要性
論文2022年11月14日
野村證券データ・サイエンス部 高蔵 蓮
野村證券データ・サイエンス部/金融経済研究所 水門 善之
野村證券経済調査部 高島 雄貴
京都大学経営管理大学院 藤田 哲雄
目次
- I.はじめに
- DXの重要性
- DXに関する課題整理
- 本研究の流れ
- II.DXで達成すべき目標
- DXに求められる役割
- 先行研究と比較した本研究の特徴
- III.定量分析から観察するDXと付加価値
- DXに関する政府の統計と公表資料
- 付加価値に貢献するDX関連人材
(企業活動基本調査を用いた分析) - 付加価値に貢献するクラウド活用
(通信利用動向調査を用いた分析)
- IV.事例調査から観察するDXと付加価値
- 日本瓦斯株式会社の事例
- 株式会社LIXILの事例
- V.おわりに
要約と結論
- 現代社会においてデジタル技術は必要不可欠であり、企業においてはデジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)を通じて、成長するデジタル技術関連の需要に適応し付加価値を創出することが求められる。しかし日本企業においてはDXの取り組みが遅れており、その背景には、人材不足やクラウドコンピューティング(以下、クラウド)などのデジタル技術に関する知識・リテラシー不足が存在する。そこで本稿では、DXにおける人材戦略とクラウド活用が将来の付加価値にもたらす効果を定量的に分析するとともに、分析結果を企業の具体的事例と照らし合わせ、将来の付加価値の創出に有効なDXを明らかにしている。
- 経済産業省の企業活動基本調査を用いた定量分析では、DX関連部門の従業者数推移と付加価値の推移が示す関連性を検証した。その結果、情報サービス事業に携わる従業者数の増強が将来の付加価値の創出に大きく寄与する可能性が示された。一方、総務省の通信利用動向調査を用いた定量分析では、クラウド導入割合や導入後の各用途での活用割合の推移と付加価値の推移が示す関連性を観察した。分析結果からは、将来の付加価値創出に繋がるためにはクラウドの導入のみならず、生産活動に直結する用途でクラウドを活用する必要性が示唆された。
- 本稿では、企業における具体的事例として、積極的にDXに取り組み成果を挙げている日本瓦斯株式会社、株式会社LIXILの事例を取り上げた。両企業ともに、定量分析で重要性が示された情報サービス事業への人材集約と生産活動に直結するクラウド活用を、各企業に適した方法で実践している。更に、DXによる既存事業の変革や新規事業の展開を通して事業が拡大し、付加価値の創出に貢献していることも窺えた。
- 本研究で行った定量分析や具体的事例の観察から、DXにおける人材戦略とクラウド活用の重要性が示された。今後、企業はより一層DXに積極的に取り組むことが求められるなかで、情報サービス事業部門をはじめとした新たな付加価値の創出へ直結する部門に人材を集約することや、事業プロセスの変革を伴ってクラウドを生産活動に直結する用途で活用することが求められよう。