2022~24年度の経済見通し
-2024年に向けて景気回復は継続、インフレ率は低下へ-
論文2022年11月22日
野村證券金融経済研究所 経済調査部 森田 京平、美和 卓、岡崎 康平、髙島 雄貴、伊藤 勇輝、野﨑 宇一朗
目次
日本経済:2024年に向けて景気回復は継続、インフレ率は低下へ
- (1)総括:インフレ率の低下が見込まれる中、日銀のYCC調整は早くても2024年
- (2)輸出入:インバウンド需要が下支え要因になろう
- (3)鉱工業生産:設備投資回復を示唆も先行きには不安
- (4)設備投資:供給制約の次は、海外景気悪化が重石
- (5)雇用・所得:賃金上昇は継続も、物価高のカバーは困難
- (6)民間消費:リオープンによる押し上げが続こう
- (7)民間住宅:資材高の緩和により、短期的に緩やかな持ち直しへ
- (8)公共投資:防衛関係費の積み増しに注目が集まる
- (9)政府消費:感染再拡大により高水準継続
- (10)物価:政府の物価高対策を受け、23年のインフレは減速へ
- (11)金融政策:物価高対策の主役は政府、YCCの修正は早くて2024年
- (12)日本経済見通し
- (13)世界経済見通し
米国経済:金融政策の焦点がシフトする中、景気後退へ
ユーロ圏経済:ECBはインフレ抑制に本腰で取り組もう
英国経済:転換点
中国経済:経済活動再開への過度な期待は禁物
要約と結論
- 野村では日本経済の見通しを改定した。改定後の見通しでは、実質GDP成長率(前年度比)は2022年度+2.1%(前回見通し+2.0%)、23年度+1.4%(同+1.3%)、24年度+1.2%(同+1.4%)となり、回復が複数年にわたって続くシナリオが描かれている。
米国、ユーロ圏の景気後退が見込まれる中、輸出は23年前半に下押しされよう。その結果、設備投資も同時期に減速すると予想される。ただし、半導体などの供給制約が緩和されることで、これまで抑制されていた設備投資が促進に転じよう。これが、リオープンや貯蓄に支えられた個人消費の増加、インバウンド需要に象徴されるサービス輸出の回復と重なることで、景気は2024年に向けて回復基調を辿ると予想する。リスク要因としては(1)米国、中国などの海外経済、(2)地政学的緊張と資源・食料価格、(3)新型コロナの感染増、(4)金融・為替市場の不安定化と金融環境のタイト化、などが挙げられる。 - 野村では、コアCPI(消費者物価指数:生鮮食品を除く総合)で評価したインフレ率(前年度比)を22年度+2.8%(前回見通し2.5%)、23年度+1.8%(同+1.1%)、24年度0.0%(同-0.1%)とみている。
コアCPIインフレ率は12月をピークとして、低下に向かうと見込む。第1に、エネルギー、食料価格によるインフレ押上効果は前年比でみると、今後は剥落しやすい。第2に、ドル高、円安傾向が23年には反転すると予想され、円安に起因する物価押し上げ効果も減衰しよう。第3に、10月に岸田内閣が閣議決定した総合経済対策により、23年1-9月のCPI前年比変化率がエネルギー価格を中心に1.2%ポイントほど抑制される。主たるリスクとしては、企業の価格・賃金設定行動が挙げられる。 - 野村は、安定的な2%インフレがCPIベースで実現する姿を2024年に向けて想定していない。この状況が変わるには、インフレを上回るペースでの賃金の上昇(=実質賃金の増加)を背景に、経済主体とりわけ家計のインフレ予想が切り上がる必要がある。この展開が現実性を増すには、春闘賃上げ率(定昇込み)が4%(22年実績は2.2%)に迫る必要がある。今後も景気は回復基調を辿ると見込まれることから、賃金に対しても一定の押し上げ圧力がかかろう。それでもYCC(長短金利操作)の修正は早くて24年と予想される。