2022~24年度の経済見通し
-2024年に向けて景気回復は継続、日銀によるYCC修正をメイン・シナリオに-

論文2022年2月21日

野村證券金融経済研究所 経済調査部 森田 京平、美和 卓、岡崎 康平、髙島 雄貴、野﨑 宇一朗、伊藤 勇輝

目次

日本経済:景気回復継続シナリオを維持、日銀はYCCを修正するも緩和姿勢を継続

  1. (1)総括:2024年に向けて景気回復は継続、日銀によるYCC修正をメイン・シナリオに
  2. (2)輸出入:海外経済の見通し改善が輸出の上方修正要因に
  3. (3)鉱工業生産:見方が分かれるデジタル関連財の先行き
  4. (4)設備投資:23年度後半から回復ペースが明確になろう
  5. (5)雇用・所得:賃上げ機運の高まりを踏まえ、賃上げ率の見通しを上方修正
  6. (6)民間消費:リオープンと賃金上昇が消費回復のドライバー
  7. (7)民間住宅:建設コスト上昇は一服も、住宅投資は緩やかな減少が続く
  8. (8)公共投資:防衛関係費増額もあり横ばい推移へ
  9. (9)政府消費:新型コロナ5類移行により23年度は減少を予想
  10. (10)物価:インフレ率は低下局面に移行
  11. (11)金融政策:日銀は6月にもYCCの修正へ、金融緩和姿勢は崩さず
  12. (12)日本経済見通し
  13. (13)世界経済見通し

米国経済:成長減速と緩やかなディスインフレ

ユーロ圏経済:景気後退見通しの「後退」

ユーロ圏主要4ヶ国経済:景気の下押しはより軽微となろう

英国経済:定義上の景気後退入りは(今のところ)回避

中国経済:ゼロコロナ政策終了後の移行加速を踏まえ23年の成長見通しを上方修正

要約と結論

  1. 野村では日本経済の見通しを改定した。改定後の見通しでは、実質GDP成長率が22年度は前年度比+1.4%(前回は同+1.8%)、23年度は同+1.6%(同+1.4%)、24年度は同+1.1%(同+0.9%)となる。
    22年度の成長率は、22年10-12月期の実績値が事前予想を下回ったため下方修正となったが、米国や中国の経済見通しが上方修正されたことを受けて、23、24年度は上方修正となった。インバウンド需要の回復を含む経済活動の再開(リオープン)を背景に、日本経済が回復軌道を辿る構図は従来見通しから変わっていないが、海外経済の見通しがやや明るくなったことで先行きの回復力はむしろ高まったと野村では見ている。
  2. 野村では、コアCPI(消費者物価指数:生鮮食品を除く総合)で評価したインフレ率(前年度比)を22年度+3.0%(改定前+2.9%)、23年度+2.2%(同+1.9%)、24年度-0.1%(同-0.5%)へと引き上げた。
    コアCPIインフレ率は、23年1月の前年比+4.3%をピークに低下するだろう。それでも(1)景気回復の継続を受けて、需給ギャップがプラスの度合いを強めていくこと(=潜在GDPを実際のGDPが上回り、需要超過の度合いを強めていく)、(2)23年の春闘賃上げ率が従来見通しを上回る可能性が高いこと、などを背景に、今後の日本経済では、コロナ禍以前に見られた「デフレではない状態」あるいは「緩やかなインフレ領域に片足を踏み入れつつある状態」が現出するだろう。
  3. 植田次期総裁の誕生が見込まれる中、今後の日本銀行は、金融緩和姿勢を堅持しながらも、YCC(長短金利操作)の副作用是正に取り組むことになろう。こうした状況を踏まえ、野村は金融政策のシナリオを変更した。
    新たなメイン・シナリオでは、4つのメニューを想定する。第1に、フォワードガイダンスの変更を4月の金融政策決定会合(以下、決定会合)で見込む。第2に、YCCの下での長期の政策金利を、現行の10年国債利回りから、5年あるいは2年に短縮することも見込まれる。早ければ6月の決定会合での対応が想定される。第3に、マイナス付利の撤廃、すなわち日銀当座預金のうちマイナス付利が適用される政策金利残高の撤廃を24年初頭以降に見込む。これら3つのメニューをこなしたうえで、第4の策として24年初頭以降のYCCの撤廃、および短期市場金利操作への移行を見込んでいる。