「日経STOCKリーグ」から学ぶ

編集者の目2023年3月22日

野村證券金融経済研究所 所長 齋藤 克史

3月18日、「日経STOCKリーグ」の表彰式が開かれた。これは学校教育での投資学習のツールとして企画された金融・経済教育プログラムで、中学、高校、大学・専門学校のチームが各々で選んだ投資テーマに沿ってレポートを作成し、その内容を競う。今年度は325校、1,860チーム、7,585名が参加し、上位に入賞した16チームが4年ぶりのリアルな表彰式に集まった。その歴史は古く、2000年度から始まり今回で23回目を迎える。弊社の株式リサーチ部門にも、高校時代に参加した若手アナリストがいる。「継続は力なり」で、その効果が着実に広がっている。

学生向けのプログラムではあるものの、チームが提出するレポートは本格的である。その構成は、(1)要旨、(2)目次、(3)投資テーマ、それを選んだ背景、(4)テーマに沿う企業を選出するスクリーニング基準の考案、(5)株式ポートフォリオの作成(国内株式、日経アジア300指数の銘柄から10~20社を選ぶ)、(6)投資家へのアピール、(7)日経STOCKリーグを通じて学んだこと、(8)参考文献、である。

投資テーマは多様で、それを一見するだけで「どのような内容だろう」とわくわくするものがある。例を挙げると、メタバースと金融、カーボンリサイクル(CO2を資源として再利用)、洋上風力発電、SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)、素材産業のイノベーション、未病(発病していないが軽い症状がある状態)の改善、教育の個別最適化、企業における人の最適流動性、である。上位入賞チームのレポートがウェブサイトに掲載されているので、ぜひご覧いただきたい(※)。

最優秀賞を受賞した同志社大学チームのレポートは秀逸である。テーマは「日本産食品の輸出拡大」で、イタリアの成功事例を踏まえて日本の輸出戦略を策定し、生産・加工・流通・消費といった食品産業バリューチェーンの各段階に分けて分析した上で、日本の強みを発揮する企業を選んでいる。また、輸出拡大による経済と社会への波及効果をも示している。

今回、筆者はレポートの審査に初めて加わった。アナリスト(セルサイド)として長くレポートを発信してきた経験を踏まえても、学生のレポートには力作が多く、驚かされた。新鮮でユニークな発想が随所に見られ、分析も多面的で深いものがあった。印象が強かったレポートの特徴を3つ紹介したい。

第1に、フィールドワークが豊富なレポートである。インターネットでテーマに関する資料を集め、企業のホームページ、統合報告書を読んだ上で、実態を理解するために教室の外へ出ている。ヒアリングの対象は、投資対象候補の企業はもとより、行政(国、自治体)、調査・研究機関、ベンチャー、大学の有識者など幅広く、フットワークが軽快である。また、企業や学校内でのアンケートを実施したチームもある。

第2に、独創性(オリジナリティ)が高いレポートである。多くのチームは、検索を駆使し、世の中で知られていることを良く調べている。その上で、自分達でもう一歩深く考えて、独創的な要素を含めているレポートは目を惹く。これは簡単でないが、少しでも実現できれば、希少性があり価値が高い。自分達の強みを活かして、差異化する方法もある。例えば、青森高等学校は洋上風力発電をテーマにして敢闘賞を獲得した。青森県は風力発電量で全国トップである。地元が強い産業を深く調べ、その将来を考えることで、リアリティ感がある厚い内容が出来上がった。

第3に、未来の変化を見通すレポートである。メタバース、宇宙、エネルギー・脱炭素、教育、健康などをテーマに、社会の構造的変化(「こうなるのではないか?」、「こうなるといいのに!」)を描くレポートがあった。若い世代の長い時間軸、自分達が生きていく社会への積極的な関心を感じる。また、現状への素朴な疑問、率直な問題意識が熱意と共に伝わり、これがより良い未来を創る原動力になると期待できる。

これらの特徴は、株式投資の実務に携わるアナリスト(セルサイド)、投資家(バイサイド)にとって大事な基本でもある。フィールドワーク(オフィスの外へ出て、現実を見る)、独創性(自分の強みを活かす)、未来への洞察は、投資アイデアの差異化へつながる。

4月から2022年度決算発表が本格化する。コロナ後となり、アナリストと企業との対話、フィールドワークが活発になるであろう。その対話が非常に大事である。それが経営陣に役立つことが、企業が付加価値を高める戦略を推進し、持続的な収益力の上昇、ひいては日本株式への投資機会の拡大へ繋がっていく。

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