2023~24年度の経済見通し
-2024年に向けて景気回復継続-

論文2023年5月24日

野村證券金融経済研究所 経済調査部 森田 京平、美和 卓、岡崎 康平、髙島 雄貴、野﨑 宇一朗、伊藤 勇輝

目次

日本経済:2024年に向けて景気回復継続

  1. (1)総括:2024年に向けて景気は回復、コアCPIインフレ率が下がる中でも物価は粘着性を増す、6月会合以降のYCC修正を視野に
  2. (2)輸出入:インバウンドが下支え材料となるも、23年内の輸出は停滞か
  3. (3)生産:輸出向け出荷の大幅な落ち込みで2四半期連続の減産
  4. (4)設備投資:ペントアップ需要が設備投資回復の支えになろう
  5. (5)雇用・所得:人手不足や物価高の継続から、24年春闘も高い賃上げ率を予想
  6. (6)民間消費:焦点はリオープンから賃金上昇へ
  7. (7)民間住宅:建設コスト上昇は一服も、住宅投資は緩やかな減少が続く
  8. (8)公共投資:年度末の駆け込み需要が大きかった可能性
  9. (9)政府消費:新型コロナ5類移行により23年度は減少を予想
  10. (10)物価:コアインフレ率の粘着性は強まろう
  11. (11)金融政策:6月会合以降(6、7月を有力視)のYCC修正、24年前半以降のマイナス付利・YCCの撤廃との見方を維持
  12. (12)日本経済見通し
  13. (13)世界経済見通し

米国経済:信用の引き締まりが中期的な物価の重しに

ユーロ圏経済:ECBは利上げ継続を示唆

ユーロ圏主要4ヶ国経済:内需の低迷が続く

英国経済:利上げはまだ終了せず

中国経済:サービス部門の旺盛な繰延需要の発現が続いた

要約と結論

  1. 1-3月期GDP統計(1次速報)の発表を踏まえて、野村では日本経済の見通しを改定した。改定後の見通しにおける実質GDP成長率は、22年度(実績)の前年度比+1.2%に続いて、23年度同+1.4%(前回23年3月23日時点:同+1.7%)、24年度同+0.9%(同+0.9%)となっている。外需(純輸出)の寄与度の低下を主因に、23年度の実質GDP成長率が幾分、下方修正されているものの、24年度に向けて日本経済が回復基調をたどるという構図は、改定後の見通しにおいても維持されている。ただし、同じ景気回復でも、23年10-12月期までとそれ以降とでは牽引役が異なる。23年10-12月期に向けては、個人消費、インバウンド需要(非居住者による日本国内での消費)、ペントアップ(抑圧)された設備投資需要の実現が主たる景気押し上げ要因となろう。一方、24年に入ってからの景気回復は、モノ(財貨)の輸出、設備投資、政府消費など家計以外の需要に支えられたものとなる可能性が高い。
  2. 野村では、コアCPI(生鮮食品を除く総合消費者物価指数)で評価したインフレ率は24年末近くには前年比+0.8%程度にまで下がると予想する。一方、24年度に向けて景気回復が続くと見込まれる中、需給ギャップ(実際の実質GDPと潜在GDPの乖離度合い)は足元(23年4-6月期)でプラス(需要超過)に転じ、24年度に向けてプラス幅を拡大させよう。加えて、春闘賃上げ率が高い水準で妥結される中、(1)家計の購買力、(2)企業の価格転嫁力が下支えされやすい。こうした中、より基調的な物価変動を反映するコアコアCPI(アルコール以外の食料、エネルギーを除く総合)で評価したインフレ率は24年半ば以降、前年比+1.2%程度で安定するとみる。つまり、コアCPIインフレ率が下がる中でも、インフレの粘着性は増すと判断している。
    なお、この判断が妥当なものとなるためには、賃金上昇の持続性も確認される必要がある。野村では、景気回復が続く中、24年も23年に比肩する賃上げが可能と見ている。このことを前提とする限り、インフレ率は粘着性を増すであろう。
  3. インフレが徐々に粘着性を増すとしても、安定的かつ持続的な2%インフレが24年に向けて実現するとは見ていない。こうした中、植田総裁の下で日本銀行は金融緩和策を続けることになろう。緩和策の持続性確保を視野に、YCC(長短金利操作)が内包する副作用リスクを排除する観点から、23年6月会合以降(6、7月を有力視)のYCC修正(10年金利ターゲットを2年あるいは5年に年限短縮)を引き続き見込む。一方、24年春闘での賃上げ継続を確認したうえで、同年前半以降、日銀はマイナス付利・YCCを撤廃するとみている。