家庭における金融教育の意義

経済金融コラム2023年10月17日

野村證券金融工学研究センター エグゼクティブディレクター 大庭 昭彦

金融広報中央委員会が2022年7月に更新した「金融リテラシー調査2022年」によれば、金融教育の重要さを支持する、次のような主要結果が継続して確認されている。

  • 金融教育を受けた人の方が金融リテラシーが高い。
  • 金融リテラシーが高い人の方がリスク資産投資に参加しやすい。
  • 金融教育を受けた人の方が望ましい金融行動をとりやすい。

一方で、「金融教育を受けた人」(=「学校、大学、勤務先で受ける機会があり、実際に受けた人」)の全体に対する割合は7.1%と高くない水準であり、米国の20%などと比較して低いということが大きな課題とされている。ここで興味深いのは同調査の母集団でも、「家庭で」金融教育を受けたと認識している人は18.4%と2.5倍にも上るということだ。従来からお金の話を家族にするのは、他の一般的な知識に比べると憚られている面もあり、「親が教えるべきことは何か、学校等には何を期待すべきか」ということは重要な問題だ。

2023年7月に野村アセットマネジメントの資産運用研究所は「金融教育に関する意識調査2023」の結果を公開した。そこでは、上述の「金融リテラシー調査2022年」と整合的な全体の結果に加え、金融教育受講の意向・経験・チャネルといった具体的な方策についての多くの結果や「家庭での金融教育」についての興味深い結果が示されている。例えば、家庭で「教えたことがある」人は全体の45%となっていて、上述調査の「家庭で金融教育を受けた」と認識している18.4%の2倍以上に大きい。親目線では既に半分近くの家庭で金融教育が行われているということだ。次に、親目線での話を「教えたいことがある」まで広げると数字は63%まで上昇する。教えたいのに教えられないと言う人が居るからだ。親が教えたい項目は「お金の大切さ」「お金の管理方法」「貯蓄の意義」が高く、投資や資産形成に関するものは少なかった。これは親が子供に身に付けさせたい基本リテラシーと、その次に教えたいリテラシーに段階があると理解できる。お金を大事にしていない/管理できない人に投資の方法を教えても仕方がないと言うことだろう。また、「教えたいことがある」人の逆側で、「教えたいことがない」人が37%いる。子供が小さすぎる家庭を除けば、教えられない理由は「知識がない」、「教えることが分からない」などとなっていて、親世代に対する金融教育、特に教え方の教育は、教えたいのに教えられない人を減らすことで、親世代自身のためだけではなく子供世代のためにも重要だということがわかる。

金融教育に関する行動ファイナンスの研究では、合理的な方法を知らせるだけ、または押し付けるだけというパターナリズムに基づく方法は成功しないということが示されてきた(Elliott 他[2010])。例えば、誰でもいつでも調べられるネットの知識よりも、信頼している人が必要な時に伝えてくれる知識の方が心に残るということがある。そうだとすれば、重要だが現在あまり意識されていないのは、子供と信頼で繋がっている親や高齢世代に対する家庭での「教え方の」教育で、これを基礎として学校や社会での金融教育が進展し、子供世代の意識向上や実践に繋がっていくのではないかと思われる。

※ 金融リテラシーは正誤問題正答率で測っている。

[参考文献]
  • 金融広報中央委員会[2022]「金融リテラシー調査2022年」
  • 野村アセットマネジメント[2023]「金融教育に関する意識調査2023」、2023年7月
  • 大庭昭彦[2017], 「行動ファイナンスと金融リテラシー」、証券アナリストジャーナル、2017年12月
  • 大庭昭彦[2022], 「投資教育と投資推進に関する研究の新展開」、証券アナリストジャーナル、2022年7月
  • Elliott, A., P. Dolan, I. Vlaev, C. Adriaenssens and R. Metcalf [2010] “Transforming Financial Behaviour: developing interventions that build financial capability,” CFEB Consumer Research Report 01.

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