中国企業の競争力が向上、日本企業は戦略の再点検を急げ

経済金融コラム2023年12月8日

野村證券金融経済研究所 所長 齋藤 克史

「日経平均株価が33年ぶりの高値」というニュースを耳にして、高揚感を覚える人は多いであろう。「33年ぶり」という言葉がドラマティックにする。ただ、2023年度の日本企業の利益はバブル期ピークである1989年度の3倍に達する見通しで、「33年ぶりの高値」は自然な帰結と言ってもよい。大事なのはこの先である。今後、米国経済の減速、円安のピークアウトなど外部環境の追い風が弱まると見込まれる。競争環境では中国企業が競争力を高めている。これらを乗り越えて24~25年度も利益を伸ばすことができれば、株価は史上最高値が視野に入ってくる。

株価は「一株当たり利益(EPS)」と「株価収益率(PER)」を掛け合わせたものと説明できる。この観点で、現在位置と史上最高値(1989年12月)を比較してみよう。まず、日経平均株価の直近値(11月末)は33,486円で、89年12月の38,915円に比べて86%の水準である。次に、EPSは23年度予想値が89年度実績値の3倍に達する(34年間の年平均成長率は3%)。そしてPERは直近が14~15倍で、89年12月時点の51倍に比べて3割弱の水準である。まとめると、現在位置は89年12月時点と比べてEPSは3倍だがPERが3割弱なので、株価が9割弱の水準に留まっている(EPS、PERは計算方法で多少変わる)。日経平均株価が市場最高値を超えていないのはバブル期にPERが非常に高かったためで、企業利益は着実に成長してきた。

PERの長期推移を見てみよう。バブル期に高かったPERは、ITブーム(1999~2000年)とその反動、リーマン・ショック(2008年)を経て、変動しながら低下してきた。その後、世界経済が落ち着いて企業利益も安定的に拡大してきた2013年度以降は、約15倍を中心とするレンジ(12~18倍程度)で推移している。13年度を起点に23年度(4~11月)までの10年間で、株価(年度平均)は2.2倍(年平均成長率は8%)、EPSも2.2倍(同8%)、PERはほぼ横ばいであった(各年度の変動はある)。10年間で均すと、株価上昇は利益成長で大半を説明できる。

日経平均株価を例に上場企業全体の利益成長率を紹介したが、各企業で状況は様々である。本コラムをお読み頂いている皆さんの会社は、日本企業全体、あるいは競合相手と比べてどうであろうか。筆者がアナリストの時にお会いした創業経営者は、決算について伺うと「発表された業績はこれまで何年もかけて取り組んだ結果」とし、「これからの打ち手が将来にとって大事」と話した。そして、中長期の観点で需要と競争環境に変化がないかを点検し、事業戦略をアップデートし、成長を実現してきた。

競争環境に関して最近耳にすることが多いのは、中国市場でのローカル企業との競争激化である。その背景として第1に、中国企業の競争力が向上し、「これぐらいで十分」という品質に達してきたことがある。生産量の増加に伴い、品質とコスト競争力が良くなるという自然のキャッチアップ・プロセスでもある。そして、中国企業の「このぐらいで十分」な品質が、中国で成長するボリュームゾーン(中品質・中価格)のニーズを上手く捉えている。第2に、米中対立の影響で、中国企業の顧客が国産品を優先して調達する動きを強めている。対立が中国企業による国産化を加速させている面もある。第3に、中国市場の成長鈍化である。もともと価格競争が厳しい市場であるが、その傾向が一段と強まっている。

国際ロボット連盟が9月に発表した「World Robotics」(産業用ロボットの世界市場調査)でも、中国市場でのローカル企業のシェア上昇が見て取れる。中国ロボット市場台数は2022年に前年比5%増で、そのうち外資系ブランドが同1%減、中国系ブランドが同19%増であった。中国系比率は20年30%、21年32%、22年36%と22年に大きく上昇した。顧客業種別では、電機産業で中国系比率が21年30%から22年41%へ上がり、自動車産業では21年20%から22年17%へやや下がった。用途別では、ハンドリング(モノを掴んで運ぶ)で21年43%から22年49%へ上昇した。外資系はハイエンド(高機能、長寿命)で競争力を維持しているが、中国系が「これぐらいで十分」な性能の製品で販売を増やしている。そして、そうした市場の成長率が高い。

中国で誕生したロボットメーカーでシェア1位のEstun Automationは、1993年に設立され2015年に上場した。コントローラやモータという基幹部品からロボットへ事業拡大し、この展開はファナックや安川電機と同様である。協働ロボットのJAKA Robotics(2014年設立)は、トヨタ自動車グループに納入実績を持つ。また、小型精密減速機のLeader Harmonious Drive Systems(2011年設立、20年上場)、ビジョンシステムのMech-Mind Robotics(2016年設立)といった基幹部品や周辺システムメーカーも力を高めており、産業基盤に厚みがでてきた。Mech-Mindは11月29日~12月2日に東京で開催された「国際ロボット展」に大きなブースを構え、積極的な展示を行っていた。こうした新興企業は設立後年数が短く、経営者が若く、野性味とスピードがある。そして、そこで働く社員からは勢いが感じられる。

今後、日本企業は中国以外の地域で中国企業と競争するケースが増えると予想される。中国企業は自国の成長鈍化に直面し、その大きな生産能力を輸出に活用してくる可能性が高い。もちろん、中国企業が自国以外で顧客を開拓するのは容易でなく、時間がかかる。市場の特性も中国とは異なる。今のうちに、日本企業は「堀」(参入障壁)を強化することが、競争優位の持続のために大事となる。長い事業経験を活かすのはもちろん、中国企業に負けない野性味とスピードを持ちたい。2024年は世界経済の鈍化が予想され、企業業績には個社の要因が大きく反映される。各社が事業環境と戦略を点検して競争力を強化し、自助努力で利益を積み増していく先に、株価の最高値が見えてくるであろう。

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