20代~30代の投資に対する意識の変化

経済金融コラム2024年2月16日

野村證券金融工学研究センター エグゼクティブディレクター 大庭 昭彦

現在、政府の資産所得倍増プラン、資産運用立国実現プランといった一連の強力な政策の後押しを受けて、20代~30代の今後社会の中核を担う世代の投資に対する考え方と行動が大きく変化している。例えば、「日本の若年層の資産形成」(青山[2023])でも示されている通り、株式・投資信託を保有している人の割合は、20代~30代では2021年までの3年間で2倍~2.5倍に急増している。また、「2023年 投資信託に関するアンケート調査」(投資信託協会[2024])によれば、20代と30代の投資信託保有者の積立投資※1参加率は実に80%を超え、積み立て投資の合理性やNISA制度の有用性の理解と利用が「最も必要な世代で」浸透してきたと言える。

こうした、若者をとりまく環境の大きな変化の中で、投資信託協会が新しい試みとして「資産形成学生論文アワード」を主催しているのでここに紹介したい。このアワードは、応募を大学生に絞ることで、粗削りでも将来につながる可能性のある新しい切り口の資産形成の論文を集めたいというチャレンジングな趣旨で行われた。結果として、様々なタイプの興味深い論文の応募が集まり、その応募の中から4本の論文が選ばれた。まず、優秀賞の松本氏は、個人のリスク資産保有がどんなファクターで決定されるかという大きなテーマを日本のみとG7全体で分析し、その結果をもとに具体的な提案までしっかりと行っていた点が多くの審査員から高い評価を得た。佳作の岩崎氏は、高校の公民・家庭の教科書を1ページごとに精査するという大変ユニークな手法でデータを自作し、このデータをもとに、同じ金融経済分野でも身につけられる金融リテラシーが教科ごとに異なるという結果を導いている。敢闘賞の伊藤氏は、ライフプラン策定時に必要となる収入・支出のシミュレーションをかなりのところまで数理的なモデルで分析した。この論文の評価は審査委員ごとに分かれたが、“マニアな”審査員から特に高い評価を得た結果としてこの賞を受けるに至った。アイデア賞の岡本・野間の両氏は、通常別々に扱われる、確定拠出年金とESGという2つの大きなテーマを、未来に向けて重要になるという点で結びつけたというアイデアが評価された。こうして受賞したテーマを並べるだけでも学生たちの投資に対する意識が変化していることを実感できる。

従来から、国内の個人金融資産のリスク資産比率が欧米に比較して極端に低いこと、そのために個人が自らの資産を増やす機会を逸していたということが指摘されている(藤丸[2023])。単純に「文化の違い」「リスク回避度の違い」と説明されることも多かったが、世代によって特別な教育経験を受けた層があったためだとする新しい考え方※2 (Araki, Martinez D.[2021]、大庭[2023])は、世代交代を経た意識の変化を許容・予測する。現在の20代~30代の若い世代を中心に起きている投資に対する意識の変化は、やがて国内の個人全体の行動の大きな変化に繋がっていくのかもしれないと強く期待している。

  • ※1 つみたてNISA含む。
  • ※2 終戦直後から1950年代にわたる小中学校での貯蓄奨励教育が団塊世代を経て団塊ジュニア世代までの中高年層の意識と行動に影響を与えているからだと説明するもの。
  • [参考文献]
    • 青山直子[2023]「日本の若年層の資産形成」(2023年、投資信託協会調査広報室レポート)
    • 投資信託協会[2023]「資産形成学生論文アワード2023」(2023年、投資信託協会WEBサイト)
    • 投資信託協会[2024]「2023年・投資信託に関するアンケート調査」(2024年、プレスリリース)
    • 大庭昭彦[2023]「金融教育が投資行動に与える効果」(2023年、財界観測)
    • Araki, Martinez D.[2021], “Financial Education, Unobserved Heterogeneity and Investment Behavior in Japan”, 2021年Keio-IES Discussion Paper Series
    • 藤丸敏[2023]「資産所得倍増プランについて」(2023年、内閣府、QUICK資産運用討論会)

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