国内株式市場の流動性と変動性について

経済金融コラム2024年8月19日

野村證券金融工学研究センター エグゼクティブディレクター 大庭 昭彦

国内株式市場が米国等の海外市場と比較して異なる点として、固定株または安定保有株と呼ばれる「特定の株主が純投資目的ではない理由で固定的に保有し、一般に流通していない株式」の割合が高いことが知られている。ここで、純投資目的ではない理由とは、例えば「株式持ち合い」や、親子上場における親会社の子会社株式保有、オーナー系企業のオーナー保有、公的機関を前身とする企業での政府保有などが該当する。このうち、「株式持ち合い」は2社以上の企業が相互に相手の株を所有することで、安定株主の形成、企業の集団化・企業間取引の強化、敵対的買収の回避など純投資以外の政策的な効果を主目的として行われている。また、親子上場における親会社の子会社株式保有は、親会社内の新規事業を分離して成長を促しながら当該事業の今後について支配的な立場を維持したい時に利用されることが多かった。

これら「株式持ち合い」と親子上場に起因する固定株は減少傾向で、統計上銀行と事業法人の保有する国内株式比率に現れている。実際、銀行と事業法人の保有する国内株式比率は、1990年度にはそれぞれ15.7%、30.1%と合計45.8%だったものが、2023年度には2.1%、19.3%と合計21.4%まで減少している※1

固定株は中期的に減少傾向があるが、まだかなり大きな割合が残っていると言える。固定株の比率が大きいと、実際の時価総額と流通している時価総額に差異が生じる。このことが個別銘柄の流動性(売買金額)と変動性(ボラティリティ)に影響していることを確かめた論文もある※2。上場時価総額が同じでも、浮動株ベースでの時価総額が小さいと、売買が減少しリスクが高まることがわかった。他の条件が同じなら投資をする上での属性が悪化するわけである。

市場全体の流動性とボラティリティを考える上で、運用サイドで見て重要な論点がパッシブ運用である。株式の運用手法をアクティブとパッシブに分けると、アクティブ運用は平均に勝つために銘柄選別を行う運用、パッシブ運用は平均と同じ収益を目指す運用である。理論的には株式市場の効率性(アクティブ運用の超過収益の得やすさ)と運用報酬のレベルによって最適なパッシブ運用の採用比率も決定される※3。日本国内では1999年当時、大規模基金でも12%程度の国内株パッシブ比率に過ぎなかったことなどが問題視された。その後状況は大きく変化し、例えばGPIFでパッシブ運用比率は9割を超えているし、日銀の保有するETF、個人投資家が保有を進めるインデックス投信もパッシブ運用にあたる。結果として現在、時価総額ベースで国内株式市場全体の22%程度がパッシブ運用されていると推定される※4。パッシブ運用は合理的な投資のための便利なツールではあるが、アクティブ運用に比較して回転率が極めて低いので過剰な利用は市場に悪影響を及ぼす可能性もあり、固定株が大きかった時代と同様の注意が必要かもしれない。

以上、固定株の存在とパッシブ運用の過剰な利用が市場の流動性や変動性に悪影響がある可能性について、過去の研究と現在のデータを組み合わせて述べた。昨今、市場のボラティリティの増大が市場心理を悪化させている風潮があるが、このことが、本稿で言う株式保有構造の変化を踏まえた議論に繋がることも期待したい。

  • ※1 日本取引所グループ[2024]「株主分布状況調査」
  • ※2 大庭昭彦[2000]「親子上場と日本株ベンチマークの考え方」(2000年、証券アナリストジャーナル(ジャーナル賞受賞))
  • ※3 大庭昭彦[1999]「年金運用におけるパッシブ運用の理論と最適パッシブ比率」(1999年、証券アナリストジャーナル)
  • ※4 守屋[2023]企業金融工学Webinar2023 3Days 東証による株価指数改革の最新状況 ~JPXプライム150指数、固定株の削減意義~
  • 手数料等やリスクに関する説明はこちらをご覧ください。