環境課題解決に向けて有望なファイナンス手段としての「グリーンエクイティ」

経済金融コラム2024年9月13日

野村資本市場研究所 野村サステナビリティ研究センター長 江夏あかね

環境課題を解決するための金融(グリーンファイナンス)は、債券やローンといった債務(デット)を中心に発展してきたが、2020年代に入った頃から株式(エクイティ)に関して、証券取引所や発行体における取り組みが徐々に見られるようになっている。

証券取引所については、国際取引所連合(WFE)が2023年3月に「グリーンエクイティ原則」を公表したり、ナスダックの北欧における取引所部門であるナスダック・ノルディックやブラジルのサンパウロ証券取引所(B3)がグリーンな活動に取り組みかつ一定の要件を満たす企業の株式をグリーンエクイティ等の名称で指定する取り組みを行っている。特に、WFEによる原則策定にも関わったナスダック・ノルディックでは、原則公表以前の2021年からグリーンエクイティ指定を開始しており、2024年8月末時点でスウェーデンやフィンランドの不動産会社などの11社が指定を受けている。

発行体については、不動産投資法人によるグリーンエクイティ、事業会社によるサステナビリティ・リンク転換社債(SLCB)、グリーンCB、グリーン社債型種類株式といった手法を通じて資金調達を行う事例が見られ始めている。日本においても、例えば、日本プロロジスリート投資法人が、2021年2月に日本の不動産投資信託(J-REIT)として初となるグリーンエクイティ・オファリングを行った。同社は2024年8月末時点で4回のグリーンエクイティ・オファリング(調達額合計1,131.44億円)を実施している。なお、この事例以降、日本の他の不動産投資法人も同様の手法により資金調達を行っている。

一方、イタリアの石油・ガス大手のエニ(Eni)は2023年9月、エネルギーセクターで世界初となるSLCB(発行年限7年、シニア無担保、10億ユーロ)を発行した。本SLCBは、転換価格17.5513ユーロでイタリア証券取引所に上場しているエニの普通株式に転換可能となっている。また、同社が2025年12月31日までに、(1)上流事業でのカーボンフットプリント(スコープ1及び2)が5.2MtCO2eq(二酸化炭素〔CO2〕換算100万トン、2018年ベースライン比65%減)、(2)再生可能エネルギー事業の導入量5GW以上、という目標の一方または両方が達成されなかった場合、本CBの元本の0.5%に相当する金額が投資家に対して第4回利払日(2027年9月14日)に支払われる仕組みとなっている。

他方、前田建設工業、前田道路及び前田製作所が経営統合して2021年10月に設立された持株会社であるインフロニア・ホールディングスは、2024年4月に転換社債型新株予約権付社債(グリーンCB、発行年限5年、ゼロ・クーポン、600億円)、同年7月に第1回社債型種類株式(グリーン社債型種類株式、発行価格総額1,000億円、2,000万株)を発行した。同社は、風力発電を手掛ける日本風力開発の株式を2024年1月に100%取得し、株式取得資金を金融機関より借り入れたが、その返済資金の一部に充当すべく、グリーンCB及びグリーン社債型種類株式を発行した。グリーンCBには、既存株主への配慮として転換制限条項が付与されており、期中の株価が転換価格の150%または130%を一定期間超えて推移しない限り、CB投資家が転換請求することができないという仕組みとなっている。一方、社債型種類株式は、2023年11月のソフトバンクに続いて日本で2件目、グリーン社債型種類株式としては本邦初となった。同社の社債型種類株式の主な特徴としては、(1)会計上/格付上のいずれも資本を拡充し、原則として2029年8月1日以降に同社による取得が可能、(2)既存株主の議決権の希薄化は生じず、財務指標への影響も限定的、(3)資本性調達手法としては劣後債と普通株式の双方の特徴を有し、東京証券取引所で自由に売買することが可能、が挙げられる。

グリーンエクイティ指定やグリーンエクイティ関連金融手法の発行体にとっての意義を考えてみると、(1)資金調達手段の多様化、(2)インパクト投資家や個人投資家も含めた投資家層の拡大、(3)(金融市場環境にもよるものの)資金調達コストの低減、(4)投資家等のステークホルダーへの安心感の醸成、等のメリットが挙げられる。その一方で、グリーンエクイティが金融資本市場に広まっていくための論点としては、(1)グリーンデット(グリーンボンド等)と同水準以上の信頼性の確保、(2)グリーンも含めた成長戦略の展開、が挙げられる。

1点目について、グリーンファイナンスがデット中心で歴史を刻んできたことを踏まえると、仮にこれまでデットでのグリーンファイナンスの経験がない発行体がグリーンエクイティ関連金融手法で資金調達を行う場合にも、既存のデット投資家が信頼できる水準の対応(例えば、フレームワーク策定、外部評価の取得、インパクトレポーティングの公表等)が投資家に訴求する上でカギになる可能性がある。

2点目について、グリーンなどラベル付の金融商品が浸透してきたデットの世界とは異なり、エクイティの世界ではグリーンというラベルは比較的新しい存在とも言える。一般論として、エクイティ投資家は、アップサイド、すなわち発行体の成長性を重視する傾向がある。そのため、発行体がグリーンエクイティによる調達資金を活用して、どのような成長戦略を描き、環境課題への対応が事業機会の創出や企業価値向上につながる構図を示せるのかが、投資対象としての魅力を伝えていく上で大切になると考えられる。

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