個人投資家にとっての等ウエイト運用
経済金融コラム2025年1月14日
野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング インデックス事業部 シニア・クオンツ・アナリスト 深澤 弘恵
政府が掲げる資産運用立国実現プランにおける主題は「成長と分配の好循環の実現」であり、家計の資産を国内の経済成長につなげ、そして還元するための様々な施策が検討されている。この施策の主役である個人投資家9000人程度を対象に行った調査※1によると、3割弱が企業型DC及びiDeCoの商品選択時に元本が確保されていることを重視すると回答していた。20代に限定しても2割程度が元本確保を重視するとの回答であった。その理由として、約半数がリスク資産を持ちたくないことを挙げており、3割弱が何を買うのが良いか分からないと回答していた。投資・リスクに対する理解浸透はまだまだ道半ばということを改めて感じる。とはいえ、資産運用は、いつ・何に・どれだけ投資するかという3点を決める必要があり、将来の資産価格は誰にも分からないなか、投資に慣れていない個人投資家が投資に対して不安や複雑さを感じるのは無理もないだろう。では、少しでもシンプルにすべく、「どれだけ」の観点を単純化した等ウエイト運用(ポートフォリオの構成銘柄における保有ウエイトを均等に保つ運用)について、個人投資家の立場で考えたい。
まず、等ウエイト運用のパフォーマンスについて述べる。一般に資産価格は変動することから、結果的に等ウエイト運用は、価格が下落した銘柄のウエイトを増やし、価格が上昇した銘柄のウエイトを減らすという逆張りの仕組みを持つ。したがって、価格が一定程度の範囲内で変動している限りは、ウエイト調整を行わないバイアンドホールド運用と比較して、等ウエイト運用のリターンは高くなる。一方で、仮に投資期間にわたって構成銘柄の価格が一本調子で下がり続ける、または上がり続けるようなことがあれば、価格上昇(下落)した資産のウエイトを減らし(増やし)続けていくこととなり、バイアンドホールド運用と比べて、等ウエイト運用のリターンは低下することとなる。アング[2016]※2では、この価格変動に伴うリバランスを、投資期間中にわたる継続的な価格上昇や下落に賭けないポジションという意味で、ボラティリティ・ショート・ポジションに等しいと説明している。逆に言えば、等ウエイト運用が仕組みとして内包する価格変動に伴うリバランスの実施は、一定程度のボラティリティを許容した上でバリュー効果を享受する運用と言える。長期にわたって継続的に資産価格が上がり続ける、または下がり続けることがなければ、企業型DCやiDeCoといった積立目的での長期に及ぶ投資期間を想定する個人投資家は、このリバランスに伴う追加的なリターンを享受しやすい投資家と言えるだろう。
ただし、資産価格が下落している際に買う、あるいは上昇している際に売るという行為は心理的障壁が大きいかもしれない。その際は等ウエイトの仕組みを内包した金融商品を利用する等、ルールベースで実行する方法も一つのやり方だろう。さらに、金融商品にすることで、より多くの銘柄への投資が可能となり、分散投資の観点からも魅力が増す。
なお、投資信託における別の意識調査※3では、投資を始める、あるいは増額させる理由として、40%以上が「長期、分散、積立で資産運用を行えばリターンを得られやすい」や「複利の効果・魅力を理解した」を挙げていた。理解が深まるということは、個人投資家のすそ野を広げる上では重要な要素と言えるだろう。等ウエイトのポートフォリオは時価総額加重型ポートフォリオにおけるCAPM(資本資産価格モデル)のような理論的な背景がある訳ではない。しかし、等ウエイト運用はリターンに対する将来予測を必要とせず、一定のルールで同じ分量で銘柄を保有するというシンプルで分かりやすい運用であり、長期でのパフォーマンスの良さを実証する研究は多々ある。積立目的での資産運用は、資金を引き出すタイミングまでに目標とする金額に達していることが最終的な目的であり、その間の価格下落を甘受する対価として得られたプレミアム(追加的リターン)を獲得することが基本的なスタイルと考えられる。アセット・オーナーへの定期的な説明を求められる機関投資家とは異なり、自分が納得できるか否かで運用を行えることは個人投資家にとって強みの一つかもしれない。長期的な資産価値の増加を土台として、一定程度のリスクを許容しながら収益を積み上げていく等ウエイト運用は積立目的の個人投資家において一つの選択肢になると考えられる。
- ※1 野村アセットマネジメント 資産運用研究所「確定拠出年金に関する意識調査2024」
- ※2 アンドリュー・アング(著)、坂口雄作・浅岡泰史・角間和男・浦壁厚郎(訳)『資産運用の本質』
- ※3 野村アセットマネジメント 資産運用研究所「投資信託に関する意識調査2024」