25年度は円高と米関税で6年ぶりの減益見通し
経済金融コラム2025年6月16日
野村證券市場戦略リサーチ部 シニア・エクイティ・ストラテジスト 元村 正樹
上場企業の2024年度決算の発表が終わり、穏やかな業績推移が確認された。TOPIX(除く金融、日本郵政、ソフトバンクグループ)の構成企業(以下、「主要企業」)を対象に集計した24年度業績の実績値は、前年度比で5%増収、同4%経常増益、同3%純利益増であった。24年度は23年度に比べて円安ドル高が約7円進み(期中平均)、これによって経常増益率が約2.5%ポイント押し上げられた計算になる。したがって、実質的な経常増益率はそれほど高くはなかったと言える。
23年度までは、通常の企業の利益成長力に加えて、新型コロナウイルスの感染拡大によって落ち込んだ経済活動が正常化することによる利益押上げ効果が、主要企業の増益率を高めた側面があったが、24年度はそういった特殊要因が剥落した。もっとも、上記の集計から除いた金融業では、国内金利の上昇により銀行の利ザヤが改善した。さらに、保険では政策保有(持合い)株式の売却が進められ、資産運用収益が増加した。上記の集計に金融を追加すると24年度の経常増益率は7%となり、企業業績は底堅かったとも言える。
一方、25年度は国内で実質賃金の前年比プラス転換を見込むが、米国の関税の影響など、世界景気についても不透明感が強い。主要企業の業績予想は、前年度比で1%増収、同1%経常減益、同1%純利益減と、6年ぶりの減益を見込む。為替市場では24年度比で円ドルレートが円高ドル安に振れており、米国の追加関税への懸念もあって輸出比率の高い製造業の業績見通しは厳しい。
なお、企業の資本効率については、依然として改善余地が残っている。主要企業のROE(自己資本利益率)は24年度に9.4%と、前年度比で0.2%ポイント低下した。15年6月に制定された我が国のコーポレートガバナンス・コードは、健全な企業家精神の発揮を促し、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図ることに主眼を置く、「攻めのガバナンス」の実現を目指すものである。しかし、主要企業全体ではROE10%の壁が立ちはだかり、個別企業で見ても24年度のROEが10%を上回った企業は全体の3分の1をやや上回る程度にすぎない。前述の通り25年度は純利益が減益となる見通しのため、主要企業のROEの改善は26年度以降に持ち越されよう。
東京証券取引所が23年3月に公表した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた要請」に対して取組みを進め、その状況を開示した企業は増加した。もっとも、現状、持続的な成長の実現に向けた経営資源の適切な配分に関する企業の取組みが、必ずしも十分でないとの指摘がある。
この観点からは、24年度に主要企業が配当や自社株取得額を増額したことは、経営資源の適切な配分を意識する企業が増えたことの表れだろう。25年度は主要企業の純利益が減益となる予想だが、予想配当額は増加する見通しだ。また、25年度に入ってから主要企業が公表した自社株取得枠は、過去最大の自社株取得額を大幅に更新した24年度の同時期をやや上回るペースで設定されている。主要企業が株主還元を強化する意欲は高まっている。もちろん、投資家が期待する高い収益性の事業に対して十分な投資を行うことが、企業に求められていることは言うまでもない。ただし、総還元性向(純利益に対する、配当総額と自社株取得額の合計の比率)を高めて内部留保の増加ペースを緩やかなものとし、資本効率の低下を抑制している欧米諸国に追いつこうとする動きは、評価されてよいだろう。