ガバナンスの視点から投資家が聞く | 社外取締役インタビュー

助言を通じ、野村グループの競争力を高め価値創出に貢献していきます 社外取締役 指名委員 報酬委員 日本たばこ産業(株)社友 木村 宏 × 一般社団法人スチュワードシップ 研究会代表理事 一般社団法人機関投資家 協働対話フォーラム代表理事 木村 祐基

社外取締役 / 指名委員 報酬委員 / 日本たばこ産業(株)社友

木村 宏

一般社団法人スチュワードシップ / 研究会代表理事 / 一般社団法人機関投資家 / 協働対話フォーラム代表理事

木村 祐基

木村(祐)初めに、木村取締役は、野村ホールディングス(以下、野村HD)の社外取締役として実際にどのような活動をされているか具体的にご説明いただけますか?

木村(宏)社外取締役としては、毎月1回の取締役会への出席が基本になります。野村HDの取締役会は極めて適切に運営されていると感じています。私は2015年6月に野村HDの社外取締役に就任しました。最初の1年間は監査委員として毎月1回の監査委員会に出席しました。2016年からは指名委員、報酬委員を務めていますが、オブザーバーとして監査委員会に陪席できるようになっています。監査委員会は、毎月グループCEO、グループCOOをはじめ各部門長などへのヒアリングがあり、人を知るという面で大変良い機会であり、これには時間の許す限り出席しています。指名委員会、報酬委員会については、必要なときに取締役会の前に時間を取って開催しています。野村HDでは、指名委員会と報酬委員会の委員は同じメンバーになっていますが、経営陣の評価と報酬は一体のものなので、この両委員会の委員を分けないことは合理的だと思います。

木村(祐)現在の取締役会の体制や運営についての評価を具体的にお教えください。また、取締役会の実効性について、年1度実施している自己評価がどのように取締役会の運営や経営に反映されているかもお聞かせください。

木村(宏)現在の取締役会の構成は、多様性がきちんと担保されていて素晴らしいと思います。取締役の人数は10人で、活発な議論を行うには丁度よい規模です。社外取締役は6人と過半数を占め、女性1名と外国人1名が含まれています。また今年6月の株主総会で、女性かつ外国人の社外取締役がさらに1名加わりました。外国人の方は、グローバルで野村がどう見られているか、また海外の規制当局がどういう動きをしているかなどの視点をもっているので、野村の経営判断を行う上で大変役立っています。

社外取締役への情報提供では、毎月の状況報告に加え取締役会の前には事前に事務局から議題についての説明があり、四半期ごとの決算については取締役会より前に、CFOから個別に説明を受けています。また、野村に関する社外に公表されている資料も豊富に届けられており、その中にはアナリスト・レポートも含まれています。社外から野村がどう見られているかという観点も、社外取締役が現在の経営がきちんとなされているかの適切な判断を行うために有用な情報だと考えています。

また、取締役会とは別に、年に数回、外国人の社外取締役も含めて社外取締役全員による会議を持ち、意見をまとめて執行に社外取締役の意見を伝えています。

社外取締役は、短期的には収益にネガティブなことであっても、職業倫理に反することや長期的に必要な投資について、助言しなければいけない立場です。任期が短すぎては経営の勘所を把握しきれず、とはいえ、あまり長期の在任で経営陣と近くなりすぎても良くないと思います。自分は6年が適切だと思っており、毎年少人数ずつ交代していく形になるのが望ましいでしょう。

取締役会の自己評価は2016年から行っており、先ごろ3回目が終わったところです。各取締役が自己の職務執行状況と取締役全体の実効性について評価して、これを基にして取締役会議を行い、取締役会の改善点を議論するという形で、うまくPDCAサイクルが回っていると考えています。

木村(祐)次に野村HDの経営戦略、経営課題についてお伺いします。野村HDの現在の経営方針、経営戦略などを、社外取締役としてどう評価され、どのような助言をされていますか?

木村(宏)一言でいえば、野村HDの経営戦略を高く評価しています。日本で少子高齢化が進み、人口減少が現実のものとなる中、営業部門では2012年から大きなパラダイムチェンジを行い、ビジネスのあり方を大幅に変革してきました。まだ変革は途上ですが、方向は正しいと考えています。製造業と違ってIT以外で大きな設備投資があるわけではなく、重要なのは人材です。社員のマインドセットが経営戦略にあっているかどうか、毎年毎年、変革は進んでいますが、マインドセットが定着するためには、エンドレスの取り組みが必要です。その面で、野村HDでは、過去の不祥事を風化させないために、8月3日を「野村『創業理念と企業倫理』の日」と定め、我々も含めて全役職員がビデオを見て誓約書にサインをしていますが、これは終わりのないプロセスであり、同じことを言い続けることが肝要だと思います。

一方、世界に目を向けると、すべての地域に資源を投入することはできません。アジアに立脚するという考え方のもと、世界最大のマーケットである米国でアメリカン・センチュリー・インベストメンツと提携してシナジー効果を追求するなど、戦略的な足場固めを行っています。海外ビジネスの 高コスト体質も見直しました。EPS目標の達成のためには、海外の利益成長を盤石なものにすることが鍵となりますし、足元、地政学リスクはありますが、早く成長につなげていって欲しいと思います。

そして、今後も、勝負すべき市場をきちんと定義して、そこに資源を投入する必要があります。中国への進出やマーチャント・バンキング部門の立ち上げなど必要なリスクテイクは行っていると考えていますし、その際に、投資案件のハードルレートとして資本コストを考慮することは、大変重要な概念です。

また近年関心が高まっているESGへの取り組みについても、野村はしっかりと行っていると思っていますが、投資家・ステークホルダーへの開示・説明の面ではまだ改善の余地があるのではないかと感じています。社外取締役としても、ESGの取り組みについてさらに深めた議論をしていきたいと考えているところです。

木村 宏  ×  木村 祐基

木村(祐)木村様は日本たばこ産業(JT)のトップとして、海外M&Aや海外事業に深いご経験をお持ちです。ご自身のご経験を踏まえて、野村HDのグローバル戦略について評価や助言があればお聞かせください。

木村(宏)海外事業のマネジメントについては、業態による特徴もあることなので、一概にJTの経験が当てはまるものではありません。ただ、JTは、1位、2位になれる市場にフォーカスし、それができない市場には進出しないという方針でした。金融でも、フェアなマーケットシェアを取っていかないと収益は確保できないだろうと思います。勝てる市場を見極めることが重要だと思います。

規制産業であることも、たばこ産業と金融業の共通点です。当局との対話を大事にし、世界の規制動向を見極めて機先を制していくことで、当局とともに将来を作っていくという視点が重要です。野村はこの点をよく理解し、適切に対応していると思います。

木村(祐)コーポレートガバナンス・コードでは「株主との対話」が重視されています。また社外取締役も株主との対話が期待されています。野村HDの「対話」の現状と今後についてのお考えをお聞かせください。

木村(宏)取締役会では、決算発表やIR説明会後の投資家フィードバックをもらっています。投資家がどこに懸念を持っているかということや辛口のコメントもきちんと説明されていますので、経営陣もきちんと対応ができているのではないでしょうか。社外取締役も、投資家からリクエストがあり、付加価値を提供できるのであれば、投資家との対話を断る理由はありません。