日本のサステナビリティ研究を「新たなステージ」へ

日本のサステナビリティ研究を
「新たなステージ」へ

サステナブルな経済・社会の実現は、グローバルで重要かつ喫緊のテーマとなっています。サステナビリティ関連課題への解決に一層コミットしていくために、野村グループは、2019年12月に「野村サステナビリティ研究センター」を設立しました。同研究センターのアドバイザーとセンター長が、設立の目的や今後の展望などについて紹介します。

野村サステナビリティ研究センター アドバイザー

  • 学習院大学教授 東京大学名誉教授 神田 秀樹 氏
  • 東洋大学大学院教授・公民連携専攻長 根本 祐二 氏
  • 高崎経済大学学長 水口 剛 氏
  • 神戸大学 経済経営研究所教授・所長 家森 信善 氏

サステナビリティ分野を金融・資本市場に関する専門性の切り口で研究

野村資本市場研究所 野村サステナビリティ研究センター長
江夏 あかね

野村サステナビリティ研究センターは2019年12月、野村資本市場研究所内に創設されました。野村資本市場研究所は2004年に設立され、資本市場の健全な発展に資する研究を行ってきました。近年は、持続可能な開発目標(SDGs)やパリ協定といった国際的な合意もあり、サステナビリティの議論を多面的に進める必要性が高まってきたため、サステナビリティ関連の研究も強化してきた経緯があります。具体的には、気候変動、高齢化、社会保障、地方創生、農業、教育、コーポレートガバナンスといったテーマについて、金融商品、金融規制、情報開示、税・財政制度などの観点から研究を進めています。また、「ESG債市場の持続的発展に関する研究会」を開催し、産官学連携で調査研究を進め、その報告書にあたるものとして、2019年6月には『サステナブルファイナンスの時代-ESG/SDGsと債券市場-』という書籍を発刊しました。

研究センターは、サステナビリティ分野を金融・資本市場に関する専門性の切り口で研究するユニークな存在と言えます。センター創設を通じて、サステナビリティ関連リサーチに一層コミットするとともに、野村グループ内外を繋ぐオープン・プラットフォームを構築し、アドバイザーと内部専門家の横断的な協働を行うこと等を目指しています。

研究を通じて持続可能な社会の実現に貢献

野村サステナビリティ研究センター発足直後に、新型コロナウイルス感染症問題が発生し、世界経済社会、そして金融市場にも甚大な影響が及んでいます。環境・社会・ガバナンス(ESG)投資やサステナブルファイナンスの重要性は、引き続き変わらないものの、新型コロナウイルス感染症問題を経て、軸足を従来の環境(E)に置いた内容から、社会(S)に関わる分野へと広がりを見せており、金融商品開発や開示の見直し等への動きにつながっています。野村サステナビリティ研究センターでは、このような最新の動きも踏まえた研究を進めており、2020年6月には、研究成果を発信していくべく『野村サステナビリティクォータリー』の発刊も開始しました。

サステナビリティ関連の社会の動きは大変速く、分野も広がっていることから、ESGやサステナブルファイナンスは魅力的な研究対象と言えます。野村サステナビリティ研究センターでは、引き続き幅広くサステナビリティ分野の研究を進め、金融・資本市場を通じた持続可能な社会の実現に貢献したいと考えています。

野村サステナビリティ研究センターの設立によせて

学習院大学教授 東京大学名誉教授
神田 秀樹 氏

野村グループによる野村サステナビリティ研究センターの設立を心より歓迎します。

サステナビリティの重要性は、今ますます増大しています。21世紀に入り20年が経過しましたが、20世紀から比較すると予想以上のスピードで進展した社会現象が3つあります。1つは人口構成の高齢化であり、2つ目は地球規模で見ると富の偏在が低金利を引き起こすとともに、世代間の格差をもたらしています。3つ目はテクノロジーの進化であり、そのスピードはここ数年一層増しています。その一方で、20世紀中には予想できなかった巨大なリスクが3つあり、いずれも人類の存続を脅かしかねないインパクトを有しています。1つ目は自然災害・気候変動、2つ目は疫病、3つ目はサイバーセキュリティです。金融・証券市場を含めた経済社会は常にこれらのリスクの中で運営されていることを意識しなければならないでしょう。

野村資本市場研究所では、これまでもサステナビリティ関連のリサーチを強化し、研究員による研究論文も多く公表され、また「ESG債市場の持続的発展に関する研究会」において産官学連携で調査研究が進められており、意義のある取り組みを行ってきました。今後は、これまでの取り組みを拡大して、地球規模で人類が直面する上記の現象やリスクを幅広く調査・研究し、サステナビリティに関する調査研究と社会への提言を行い、野村グループらしいグローバルなレベルでインパクトを持つような活動を進めていただき、経済社会の発展に寄与していただくことを期待しています。

地方創生と企業利益の同時実現を目指す社会モデルの構築に挑戦し、ともに貢献を誓う

東洋大学大学院教授・公民連携専攻長
根本 祐二 氏

サステナビリティは、経済主体が部分最適行動をとると全体最適を損ない、結果的に部分最適も達成できなくなることを避けるために提唱された概念です。部分最適と全体最適を対立概念としてとらえると、サステナビリティ推進派は、社会全体の前に企業が大事だという批判を受けることになります。私が在籍する東洋大学でも、また前職の日本政策投資銀行でも、同じような禅問答が繰り返されてきました。一見二律背反に見える矛盾の解決方法は、全体最適を考えた行動が個別企業の利益追求をも実現するというモデルの構築です。

地域金融には、リレーションシップバンキングというモデルがあります。例えば、若手銀行員が取引先の経営を改善するため知恵を出し、関係者に協力を仰いで大いに汗をかくとします。いずれは、地域の衰退を食い止め新しい産業を起こせるかもしれません。しかし上司は、「大変結構ではあるが、そんな先の夢物語ではなく、明日の食い扶持を探して来い」と命令するでしょう。かくして意欲ある若手は方向性を見失ってしまうのです。リレーションシップバンキングは、この矛盾を解決します。取引先のサステナビリティを改善すれば、地方創生にも貢献しますが、同時に、格付の引き上げ、貸倒引当費用の減少を通じて利益を増加させることができます。つまり、金融機関の地域振興部門はプロフィットセンターなのです。野村サステナビリティ研究センターがこのテーマを研究するということは、矛盾を解決する社会モデルの構築に挑戦するということです。野村グループの勇気に敬意を表するとともに、私なりに同センターに貢献することを誓います。

野村グループに蓄積する経験と総合力を研究に生かし、その成果が市場全体に波及することで社会がよりサステナブルになることを期待

高崎経済大学学長
水口 剛 氏

「資本主義が岐路に立っている」
そういう感覚を多くの人が持っていると思います。実際、ESG投資、サステナブル金融、インパクト投資などさまざまな動きが生まれ、ステークホルダー資本主義ということが言われ始めました。けれども、社会はまだサステナブルになったようには見えません。むしろ危機は一層明らかになってきました。

そのような時期に、野村サステナビリティ研究センターが設立されたことはたいへん時宜を得たことだと思います。何と言っても、資本主義の中心は資本市場ですし、野村グループは長年最大手の証券会社グループとして日本の資本市場を牽引してきた存在だからです。

だからこそ、野村サステナビリティ研究センターには、自らの強みを十分に生かしてほしいと思います。そして他の研究機関ではできない研究をしてほしいと思います。その強みとは、もちろん、野村グループの一員であるということです。野村グループに蓄積されてきた経験と総合力がサステナビリティ研究に生かされることを期待しています。同時に、皆さんの研究が単に机上の研究にとどまるのでなく、研究成果がまずは野村グループの企業行動に反映し、さらに市場全体に波及することで社会がよりサステナブルになるという関係であってほしいと思います。人々の自由な行動と市場のメカニズムを通して自ずとより良い社会が実現する、そういう仕組みを作ることは、サステナビリティ研究センターを名乗ることの義務だと言ってもよいでしょう。頑張ってください。

サステナビリティ金融に関する「良質な情報発信や各種提言」を強く期待

神戸大学 経済経営研究所教授・所長
家森 信善 氏

証券を通じた資産形成が日本で進まない理由のひとつは、証券投資に対するネガティブな感情が国民の中で強いことです。日本証券業協会が実施している「証券投資に関する意識調査」の結果を見ても、証券会社のイメージとして「社会の役に立つ」という回答は5%程度しかありません。しかし、金融を通じて社会の課題を解決し未来を創るという、ESG金融やSDGs金融(ここでは、これらをサステナビリティ金融と呼ぶことにします)の取り組みは、金融に対する国民の意識を180度変えるのではないでしょうか。野村サステナビリティ研究センターがそのゲームチェンジャーとなることを期待しています。

私が執筆している『金融論』の教科書では、2018年の改訂の際に、「社会的な課題を解決する金融」としてESG金融を初めて取り扱いました。実は、他の金融論の教科書をみても、サステナビリティ金融を扱っているものはほとんどありません。残念ながら、まだ日本ではサステナビリティ金融は、誰もが知っている話題ではないのです。

しかし、顧客、株主、地域社会など社会のさまざまなステークホルダーが、企業や金融機関によるサステナビリティ金融の取り組みを支持しなければ、サステナビリティ金融はサステナブルになりません。支持してもらうためにはまずは知ってもらうことが大切です。野村サステナビリティ研究センターには、サステナビリティ金融に関する「良質な情報発信や各種提言」を強く期待しています。その際、専門家や金融機関の担当者向けの高度なものだけではなく、一般国民に対する情報提供も重要だと思います。アドバイザーとしてこの意義深いチャレンジに参加できることを楽しみにしています。

野村の最も重要な経営リソースであるリサーチ機能と、リサーチが生み出すコンテンツを活用し、ステークホルダーのみなさまとともに日本のサステナビリティ研究を「新たなステージ」に進化させたいと考えています。野村グループは今後も、金融資本市場を通じて、持続的な経済成長や豊かな社会の創造に貢献していきます。

野村サステナビリティ研究センター理事長
飯山俊康

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