コーポレート・ガバナンス | 社外取締役インタビュー
社外取締役 リスク委員会 委員長
Laura Simone Unger
ローラ・アンガー
当社は、取締役会のレベルにおいて、業務執行に対する広範かつ厳格な牽制と監督を行う一環として、より高度で深度あるリスク管理態勢の整備等について、執行から独立した視点からの監督を強化する目的で、社外取締役と非業務執行取締役により構成される「リスク委員会(英文名称:Board Risk Committee)」を設置し、すでに運営を開始しました。今後は、リスク委員会の監督のもと、経営陣がその責任においてリスク管理の高度化施策を遂行し、体制構築と運営に万全を期していきます。
リスク委員会について
リスク管理高度化の一環として、リスク委員会が設置された背景について教えてください。
米国事案の発生がきっかけですか。
近年、特に米国ではドッド・フランク法の規制も背景に、多くの金融機関がリスク委員会を設けています(なお、本規制による設置義務は当社には課されていません)。世界の複雑性が増しているため、グローバルにビジネスを展開する野村グループにとって、監督側にリスクに特化した委員会を設置することは、有意義であると考えていました。そこで、野村ホールディングス取締役会では、委員会の必要性について詳細な議論を開始し、委員会のメンバー構成、対象とするリスクの範囲などに関する検討を重ねていました。
2021年に米国顧客取引に起因する損失事案(以下、「米国事案」)が発生したのち、リスク管理高度化に向けた取り組みの一環として、リスク委員会の設立を正式に決定しました。野村では委員会の必要性について以前より議論されていましたが、米国事案から学んだことにより、リスク管理やグローバル展開についての考え方を根底まで深く考えることができたと思います。野村は将来に向けて真に強固な組織になる上で必要な投資に本腰を入れてきているように感じます。
リスク委員会はどのような役割を担っているのでしょうか。
リスク委員会は、リスク・アペタイト・ステートメントやリスク管理フレームワークの変更に関して同意する権限を持っています。また、戦略的リスクについても、例えば外部要因に関するリスクの議論などを通して、分析や予測に努めています。そうすることは、経営陣に緊張感ある試験を課すようなもので、日々目まぐるしく変化する資本市場の複雑性の真っただ中において、リスク管理をより深く考えさせ、ビジネス機会を深く探ることによって、フレームワークや戦略的リスクを考えることに役立つのではないか、と考えています。さらに、新任のマネジメントの方にリスク委員会に参加してもらい、オープンに対話する機会を提供することも始めています。そうすることで、透明性の高い議論を通じてリスクを担当する経営陣のアカウンタビリティを高めることをサポートするとともに、全てのリスクに関する論点を我々が注視しているということを認識してもらいます。
リスク委員会はどのようなメンバーから構成されていますか。
モッサー取締役とジャンカルロ取締役は、経済学の側面や実際のモデリング・金融市場について深い知見があり、チュー取締役は野村のビジネスの実地経験があり、島崎取締役は財務の専門家であるとともにリスクに関して監査委員会の観点を取り込む意味でも重要な役割を持っていただいています。皆さん多様な思考を持っていて、素晴らしい人材の組み合わせだと思います。さらに、効果的な点として、モッサー取締役、ジャンカルロ取締役と私が、米国子会社の取締役会にも入っていることです。組織横断の透明性やコミュニケーション向上にも役立っていると思います。
業務執行を担う経営陣を牽制するという観点について、リスク委員会としてはどのように考えますか。
何事も対話から始まると思います。私たちは詳細に練られた考えに対して全体像を見渡す視座を追加的に提供します。そうした視座は、各委員の知識・スキルや野村の外での経験から成り立っているものです。時としてそういった対話は一度では終わらないものですが、少なくとも話を始めることが重要です。経営陣も取締役会メンバーからの意見を求めていると思います。リスク委員会は、必ずしも取締役会本体の議論に取って代わるものではなく、取締役会が考えている、関心がある、そして調査したい問題についてより深く検討したり、精査してその結果を報告したりするというものだと思っています。
リスク・カルチャーについて
リスク・カルチャーが野村グループの競争力にどのような影響をもたらすと思いますか。
米国事案により、ウォールストリートの金融機関について完璧ではないことが少なからず露見しました。当社にとっては少なくともリスク管理とリスク・カルチャーを、より深く検討し、現在の業界のベストプラクティスに向けて変更・進化させるきっかけとなりました。リスクに専門性があり焦点を当てている会社であると知られていくことにより、お客様を惹きつけ新しいビジネスをもたらす競争優位性を獲得していけるのではないか、と考えています。市場に投資しリスクを管理するために非常に洗練されたアドバイスや商品へのニーズは高まっています。そういったお客様のニーズを満たすべく、私たちは最善・最高のサービスを提供する必要があります。幸い当社はそういった点に秀でており、非常に複雑な金融業界においても競争力を発揮し続けるでしょう。
リスク・カルチャーの浸透にあたり、何が重要でしょうか。
また、目指すべきゴールについての考えをお聞かせください。
会社および個人の両方においてリスク・カルチャーは存在します。会社レベルにおいては、リスクはあらゆる活動に付いて回るものですから、今後のビジネス機会や戦略に関する考え方自体を意味します。個人レベルにおいては、組織の一員として会社のために何をするか、成功のために他者とどう協働するか、といった観点で自身の責任をどのように捉えるかというものです。私たちは一つの会社としてあらゆる点で協働しなければならないのです。それは場合によっては特別な取り組みであるかもしれません。例えば、自分が苦労して獲得した専門知識を同僚や会社全体のために分かち合うことだったりするのです。
米国事案のような出来事の再発防止が、リスク・カルチャーを強化していくことのゴールの一つとなるかと思います。それと同時に、より強固なリスク・カルチャーおよび企業文化を築くことの目的は、協働するためのコミュニケーションを持続し、不利益を受けることなく懸念を報告できる環境を整え、自分の声が傾聴され尊重されているという感覚を持ってもらうことにあります。
最後に
2018年から野村ホールディングスの社外取締役を務めていますが、野村が企業価値や株価を高めるためには、どのような戦略や行動が必要だと考えますか。
これまでは、堅調な業績があった一方で、ネガティブ・サプライズもありました。サプライズなく堅調な業績を継続することは株価に大きく貢献すると思いますし、実際、サプライズを生じさせ得る事柄があれば、過去のものであれ解消しようと丹念に取り組んでいると認識しています。また、戦略的な目標に向けた確かな進捗を提示するとともに、それを示す指標をより詳細に提供することができれば、野村の将来性に対する投資家の信頼を高めることとなり、株価上昇にもつながるのではないでしょうか。
最後に、ステークホルダーへのメッセージをお願いします。
野村はお客様やステークホルダーを非常に大切に考えており、資本市場のパラダイムシフトを反映して、固い決意で新しい野村になろうとしています。そのためには、リスク管理と企業文化を継続的に発展させ、戦略目標に集中する必要があります。ガバナンスの点で驚くほどの進歩を遂げ、単に外国に複数の事業所がある日本の会社ではなく、真に単一のグローバル企業になったと思います。そういった変革は私にとって一層明白に感じられ、取締役会はより強く、より効果的になり、重点分野により焦点を絞ったものになっていると思います。株主やステークホルダーのみなさまとの関わりを深め、戦略についてより深く議論し、もちろんリスクに関してリスク委員会とともに焦点を当てることで、私たちは迅速に実行することに集中できます。私たちの未来が、役職員の才能やその発揮する力が世界中に知られているようなグローバル企業になっていれば、と思っています。