次世代農業ビジネスの確立

野村アグリプランニング&アドバイザリーは、野村グループ全国の本支店のネットワークから得られる各地域独自の情報と、グループ内で培ってきた金融ノウハウを活用して、農業の産業化をサポートしています。また、その子会社である野村ファームでは、千葉県において地元の和郷園と協働し、トマト栽培を通じて農業経営のノウハウ蓄積にも取り組んでいます。

農事組合法人和郷園
代表理事
木内 博一

NPO法人日本プロ農業総合支援機構
理事長(元農林水産事務次官)
髙木 勇樹

野村アグリプランニング&アドバイザリー
取締役社長
西澤 隆

日本の農業の課題とは何でしょうか?

農業とは「食材製造業」であるという明確な位置づけが必要

木内氏:まず、日本では農業をビジネスとして捉えている人が極めて少ないというのが問題です。そもそも、生産者をはじめとした関係者の間で「農業」という概念・定義が明確になっていません。我々がやっているのは、要は「食材製造業」。そう考えれば、さまざまな問題点について解決の糸口が明確に見えてきます。農業というオブラートに包むのでなく、「食材製造業」というカテゴリーに置き換えることで、ビジネス的な視点が生まれ、地域で展開する農業が雇用を生み出し、次世代の地域産業として根付いていくのです。

電化製品や自動車など、ほかの製造業は、いずれも国内への供給から始まって、海外への供給によって産業として定着し、今では海外での製造にシフトしつつあります。日本の農業の現状というのは、まだ「食材製造業」という位置づけすら曖昧ですが、ようやく若い農業者を中心にスタートを切ろうとしています。ほかの製造業に追いつくよう、これから国内のマーケットで安定供給網を構築するのと同時進行で、海外市場への道筋を拓いていく努力が不可欠です。そういう時代の転換期にあると認識しています。

「持続的農業経営体」が必要

髙木氏:戦後の日本農業は、食糧管理制度・農地制度・農業協同組合制度・農業基本法という4つの大きな柱によって支えられてきました。600万の農家が米をつくり、農協を通じて効率よく国に集め、国民に公平に分配する。この仕組みは、戦後の一時期においては国民のニーズにも合致した優れたシステムでした。しかし、それから大きく時代が変わった現在でも、ひょっとして行政も含め、関係者の意識が変わっていない。稲作農家のほとんどの方は「米は国が守ってくれる、守るべき」という意識のままです。だから産業化が進まず、経営という意識も生まれてきません。経営というのは、ものづくりだけやっていればいいのでなく、それを加工し、販売することまで考えるのが当たり前。要するに、ビジネス、経営の視点が必要ということです。今の農業の課題を端的に言うと、それに尽きると思います。

農業を産業として持続させるためには、リスクをとってリターンを求める、といった経営感覚、経営視点をもって農業に取り組んでいこうとする方々を増やすことが必要です。私は「持続的農業経営体」、あるいは「プロ農業」と呼んでいますが、こうした方々を増やすために、私たちのNPO法人日本プロ農業総合支援機構が存在しています。現在の社会が求めているのは、まさにこうした持続的な農業ビジネスを確立していこうとする人々です。その動きが国民・消費者のニーズに合致するものであれば、制度や仕組みもついてこざるを得なくなるはずです。

近年では、行きつ戻りつしながらも「経営する」という方向に向かっているので、あとはスピードアップが必要です。そのためには、農地・人・技術に加え、経営者のもつ販売力、企画力、商品化力などをあわせた“総合産業”としての農業に創意工夫して取り組む農業経営者の努力が報われるような環境条件を整える仕組み、いわば持続的農業経営体の総合支援法のようなものをつくるべきだと考えています。これまでの農業保護の制度・システムを「経営、産業」視点で変える、守り方を変えるということでもあります。

課題の解決に必要なこととは何でしょうか?

“食”に関する日本の強みを活かし、国益をもたらす産業へ

木内氏:日本の農業が海外市場で勝負していくためには、大きく2つの方法が考えられます。一つは、グルーバルな適地適作によって、どこにも負けないコスト競争力で勝負するという、アメリカ的な方法で、もう一つは180度反対で、消費者ニーズを先読みした「尖んがった商品」を企画し、供給していく方法です。この両極端な方法でしか、産業として勝てないと思います。その間は中途半端で、利益が取れません。幸いにして日本には、食文化の豊かさや、ヘルシーフードやメディカルフードといった食と健康のノウハウなど、この尖んがったところで世界一に近い強みをもっています。しかし、そうした強みが、消費者だったり、異業種の方にとっては未知の世界であることが問題です。

例えば、野村和郷ファームで生産しているフルーツトマトは、製造業でいえば精密機械をつくるようなもので、トマト栽培技術のなかでも一番難しいといわれるジャンルです。日本の農業の素晴らしさは、その一番難しいものを、昨日まで金融マンで、農業の「の」の字も知らないような人でもつくれるところまで技術を確立していることです。こうした農業技術の“NOW”を、世の中にメッセージとして出していけば、もっと幅広い産業分野の人々の知恵を集めることができますし、それらを活かして農業界のあるべき姿を構築することで、外貨をしっかり獲得して国益をもたらせる産業になれるはずです。日本の得意技は「尖んがったところ」にあり、世界はそれを求めているわけですから、異業種の知恵やノウハウを借りて、その強みを生産から加工、流通まで、一気通貫のサービスとして構築することで、必ず国益に貢献できると期待しています。

他産業が参加して一緒にやるべき

髙木氏:日本がほかの産業分野で培ってきた技術やノウハウのなかには、農業に応用できるものが数多く潜在しているはずなので、それらはおおいに利用すべきです。そのためには、まず、多くの人に農業への関心をもってもらうのが大事だと思います。製造業などほかの産業にとっても、農業に応用できる技術があれば、それは新たなビジネスになります。国内市場が狭くなるなかで、これは大きなメリットです。だから農業と他産業は共存共栄を前提に、一緒になってやるべきです。一緒になって考え、一緒にやっていけば、双方に大きな成果が望めるはずです。日本の農業経営者の基本的な経営レベルはマインドを含め非常に高い。もともとのレベルが高いので、他産業からの刺激を得られれば、それらをうまく活用して、産業としての農業経営を実現していけると思います。

野村へのご期待、ご意見、ご注文があればお聞かせください。

よりスピーディーに成功モデルを生み出せるよう、レスポンスの早さを重視すべき

木内氏:まず、野村グループに期待している点ですが、一つは、ワールドワイドに情報を収集できる強みを活かして、私たちの考えや仮説、マーケットに対する推測などを検証し、判断できることです。また、農業から「食材製造業」へと転換していくには、産業を動かすための“血液”、つまり資金が必要であり、この資金に対するいろんな知識や仕組みを、総合的に提供できるのも、野村グループの強みではないかと思っています。

加えて、幅広い産業分野とのネットワークを活かした、異業種との架け橋としての役割にも期待しています。すでに国内各地の野村グループの営業店を通じて、異業種からの農業参入の問い合わせがきていると聞いています。そのなかにはビジネスとして成り立つための条件を備えたものもありますので、まずはそこから成功事例を積み重ねていくことが重要だと思います。

一方で、注文があるとすれば、それはスピード。産業を育てるときに、事前の戦略立案やリサーチなど、つくり込みのための費用と時間を掛けすぎると、いざ立ち上がってもそれらを回収するまでに時間が掛かってしまう。だからもっとレスポンス良く、いかにスピーディーに、軽い負担で成功モデルを生み出すかを重視した方が良いと思います。食産業のトレンドはつねに変わるものですし、慎重に戦略を練って、大事につくり上げても、商品の賞味期限はすぐに来てしまう。マーケットのなかで評価される時間軸は、野村のほかのビジネスよりも短いわけです。ですから、100%ヒットが打てるよう、前もってじっくり考えてから、という発想は、この分野ではナンセンスです。まずは6割クリアし、できなかった4割については、次のステップの課題にすれば良いのです。そうしたことを踏まえてアクションを起こしていってほしいと思います。

農業経験を経営資源にして農業ビジネスの産業化に貢献を

髙木氏:消費者である国民が求めているものをきちんと提供することができれば、必ずやビジネスとして成功します。けれども、それを農業経営者だけで全部やるのは難しいことです。だからこそ、ほかの産業が培ってきたビジネスの仕組みや知恵を、うまく活用できるような仕組みが必要だと思っています。その点、野村グループはいろんなネットワークをもっていて、ビジネスとは何たるかもよくわかっているので、農業経営者をさまざまな産業とつないでほしいのです。

とくに、野村グループに期待できるのは、野村ファームのように、生産者と提携して自らトマトの栽培に取り組んでいる点です。実際に農業を経験することで、最新の栽培技術や農業地権者との交渉などのノウハウが蓄積されています。それを野村アグリの、そして野村グループの経営資源にしてほしい。一方で、野村グループの経営資源と、農家が培ってきた経営資源を結びつければ、新しいビジネスとしての農業を確立できるし、一緒にやっていこうという経営者が見つかります。おもしろいもので、こうしたマッチングの機会は、農業界に直接参加していることが発信力、発信源になって自然に生まれてくるものです。農業のビジネス化をスピードアップしていくために、野村アグリへの期待は大きいです。まだ始めて2年なので注文を付けづらいのですが、農業界に入り、自らぶつかるなかで、重要なものが見えてくると思います。そのなかで必要なものを肌で感じ、それを乗り越えて、次のステップへ進んでほしいと思います。

ご意見を受けて

地域活性化は野村のビジネスチャンスと捉え、農業の産業化をサポートしていきます。

西澤氏:農業は、地域に根ざした産業であり、その活性化を促すことは、地域経済を底上げし、資金需要を生むだけでなく、少子高齢化、地域格差、食糧問題、環境問題などの社会的課題へのソリューションになりえます。現在の農業は、課題が多いからこそ地域経済の活性化につながる機会も多様だと思います。

地域活性化や農業の海外展開は野村にとっても大きなビジネスチャンスであり、本業で培った金融ノウハウや国内外のネットワーク力、さらには農業経験で得たノウハウを活かして、農業の産業化とスピード化に貢献していきたいと思っています。

野村ファーム北海道 収穫の朝

野村ファーム北海道の意義

Nomuraレポートダウンロード
サステナビリティについてのお問い合わせ
メディアギャラリー