日本再興・地方創生を支える仕組み~東日本大震災からの復興とSDGs~

持続可能な社会の実現に向けて、日本の社会における「地方創生」の取り組みがますます重要になっています。野村グループは、「震災復興」を通じ、地方創生やSDGsなどの社会課題を語り合うオンラインセミナーを2021年10月19日に開催しました。今回のセミナーでは、福島県知事による基調講演をはじめ、企業による講演と対談が行われ、各登壇者から東日本大震災からの復興や地方創生への取り組み事例が紹介されました。

基調講演 「FUKUSHIMA」の未来

内堀 雅雄 氏
福島県知事

「影」を「光」に変えていくために、復興と地方創生へのチャレンジ

東日本大震災と原発事故から10年と7カ月が経過しました。この間、全国の皆さんから温かいご支援をいただくなかで、福島の復興は着実に前に進んでいます。今日はその福島の姿について、2つのキーワードをあげてお話ししていきたいと思います。
1つめのキーワードは「光と影」です。「光」とは、福島の復興がこの10年間で着実に前に進んでいることを指します。具体的な例としては、放射性物質の除染があげられます。10年間、地道な除染作業を継続してきた結果、県内の放射線量は避難指示区域を除くほとんどのエリアで海外主要都市とほぼ同水準となっています。農林水産物に含まれる放射性物質も、世界各国よりもはるかに厳しい基準を設けている日本において、その基準を超えるものはありません。また、震災によって日本酒の蔵元の多くが甚大な被害を受け、風評によって売上も激減しました。それでも酒造りの情熱は消えることなく、福島県の日本酒は全国新酒鑑評会で金賞受賞数8回連続日本一の快挙を達成しています。
次に「影」、震災から10年経っても未だに抱えている重い課題についてお話しします。福島県では現在もなお約3万4,000人もの方が避難生活を継続しています。さらに私たちに重くのしかかっているのが、福島第一原発の廃炉であり、喫緊ではALPS(アルプス)処理水の問題です。農林水産物についても今明るい話をしましたが、多くの農産物の価格が全国平均より下回っているという問題を抱えています。また、観光面でも回復はしていません。このような問題に加え、私たちが非常に頭を悩ましているのが人口減少です。福島県では、構造的なものに加え、震災や原発事故の影響によって急激な人口減少が進んでいます。
では、この「影」を「光」に変えるためには何が必要なのか。それが2つめのキーワードである「挑戦」です。福島県では、「復興」と「地方創生」という大きく2つの分野でさまざまな挑戦を始めています。総合計画として11の重点プロジェクトをつくっています。昨年、南相馬市に完成した「福島ロボットテストフィールド」もその一例です。世界に類を見ないフィールドロボットの一大開発実証拠点として、数多くの研究が繰り広げられています。
このように挑戦を続ける私たちにとってかけがえのないものになっているのが、皆さんからの応援である「エール」です。このたくさんのエールがあったからこそ、私たちは心折らずに前を向いて10年7カ月挑戦を続けることができました。今回のオンラインセミナーを開催する野村グループも「東日本復興支援債券ファンド1105」や「企業版ふるさと納税制度」などの新たな仕組みを活用して応援し続けてくれています。全国のさまざまな立場の皆さんのエールのおかげで、私たちはここまで頑張ってくることができました。改めて心から感謝申し上げます。

福島県知事 内堀氏による基調講演(感染症対策のため野村證券福島支店にて事前収録)

講演(1) 地方創生の課題と展望

澤飯 篤 氏
内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局
内閣参事官

わが国の地方創生の大きな方針として「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を推進

人口減少や少子高齢化をはじめ地方の課題はますます複合的になっています。一方で新型コロナウイルス感染症拡大を機に、人や仕事の流れが地方へと向かい始め、地方への注目度が格段に高まっています。これまで地方創生における大きな壁となっていた東京一極集中を是正するチャンスともいえる、たいへん重要な局面を迎えていると思います。
このような地方創生の大きな方針として、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局では「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を推進しています。感染症の影響を踏まえて、2020年12月に「総合戦略」を改定し、さらに2021年6月に「まち・ひと・しごと創生基本方針2021」を策定しました。
この基本方針では、地方移住への関心の高まりや、デジタル化、脱炭素化などの動きに対応して、「ヒューマン」「デジタル」「グリーン」を柱とした地方創生の進め方を提示しています。このうちの「ヒューマン」については、地方への人材支援策として、多様化・複雑化する地域の課題を解決するために、関係府省庁とともに、地方創生を担う人材の派遣支援や地域における人材の確保・育成に取り組んでいます。

まち・ひと・しごと創生基本方針2021

塗師木 太一 氏
内閣府地方創生推進事務局
参事官補佐

「企業版ふるさと納税」による地方創生の支援

「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の3つのキーワードのうち、「ヒューマン」に関わる政策として、「企業版ふるさと納税」を推進しています。これは、自治体が行う地方創生の取り組みに対して企業が寄付をした際に、税額控除をはじめ最大約9割の税の軽減効果が受けられるという制度です。また、専門的な知識・ノウハウを持つ企業の人材を自治体に派遣していただき、企業版ふるさと納税と組み合わせて、地方創生のより一層の充実・強化を図る「人材派遣型」のスキームも進めています。
寄付実績はコロナ禍にあっても大きく増加しており、2020年度までの合計寄付額は約209億円に達しています。野村アセットマネジメントでも、地域金融機関と連携して企業版ふるさと納税の仕組みを活用した寄付スキームを創設しています。
企業版ふるさと納税の活用は、企業のPRやCSRの周知、SDGsへの貢献にもつながります。地方創生は、行政の取り組みだけではなかなか実現が難しい部分があります。ぜひ、官民連携して地方創生に取り組んでいきたいと思っています。

企業版ふるさと納税ポータルサイト

講演(2) 地方創生/SDGs及びSDGs債市場の現状と展望

江夏 あかね
野村資本市場研究所
野村サステナビリティ研究センター長

地方創生とSDGsは親和性が高く、地域課題解決のためのSDGs債発行は今後も増加する見通し

人口減少・少子高齢化をはじめとする社会課題が顕在化するとともに、地方創生が重要施策として位置づけられています。地方創生とSDGsは親和性が高く、日本政府は地方創生とともに地方公共団体におけるSDGsの推進を後押ししています。
金融に目を向けると、世界では、持続可能な社会の実現を目指すことを意図した金融商品の開発が続いています。その代表的な商品がグリーンボンド、ソーシャルボンド、サステナビリティボンドであり、これらはSDGs債と称されています。
世界のSDGs債市場を見ると、2015年頃から急速に拡大しています。一方、日本の発行体によるSDGs債も順調に伸びていますが、世界でのシェアは全体の4%程度、すなわち伸びしろがある状況です。また、これらSDGs債の発行残高の半分近くは、地方公共団体や政府系機関といった公的セクターの発行体が占めています。この後ご登壇される東日本高速道路も含めて、多くの公的セクターの発行体が、日本の各地域のサステナビリティ課題の解決に向けて、継続的にSDGs債を発行しています。
地域課題解決のためのSDGs債の発行は今後も増えていくとみられます。このように、SDGsの達成にあたっては、地域課題の解決、そしてそれを支援する金融機能が重要です。野村サステナビリティ研究センターでは、これからも地域課題解決への貢献も意識した研究を戦略的に進め、発信していきます。

対談(1) 東日本大震災からの復興への取り組み及びSDGs債の発行について

東日本高速道路株式会社 執行役員 吉見 秀夫氏
(対談相手:野村資本市場研究所 サステナビリティ研究センター長 江夏 あかね)

吉見 秀夫 氏
東日本高速道路株式会社
執行役員

社会のインフラである高速道路事業の資金として、ソーシャルボンドを継続的に発行

当社は、新潟県および長野県の一部を含む関東から東北、北海道までの東日本地域における高速道路の管理・建設・サービスエリア事業等を行っております。当社の高速道路は、重交通地域や積雪地域を抱えていることもあり、交通の機能確保やネットワーク形成において重要な役割を負っていると考えておりますが、東日本大震災により、約2,300kmが通行止めになるなど大きな被害を受けました。その後、当社グループ一丸となり復旧工事に取り組み、震災発生から20時間後までに緊急交通路を確保し、さらに13日後には一般車両も通行できるように応急復旧するなど、被災地を救う「命の道」として貢献しました。2012年12月までにすべての区間で工事を完了させ、本復旧後も常磐道の全線開通、新たなIC・スマートICの整備などを通じて、「復興の道」として被災地域の復興支援に貢献してきました。
一方、当社グループが管理する高速道路は、2030年には開通から50年を超える道路の割合が2割に達し、老朽化対策が大きな課題となっています。その解決に向け、「高速道路リニューアルプロジェクト」と称して大規模更新・修繕事業を進めています。
高速道路の建設・更新等の事業における資金を調達するために当社では社債を発行しており、2015年度以降の資金調達額が年間4,000億円を超えています。このような状況において、今後も安定的に資金調達を行うためには投資家層の拡大が必要と考え、2019年6月からソーシャルボンドの発行を開始しました。現在では当社が発行する社債はすべてソーシャルボンドとなっており、残高は9,100億円に達しています。高速道路事業は、社会の理解なくしては進めることはできない事業であり、多くの投資家のみなさまに当社の事業について共感いただくことは、当社のソーシャルボンドをはじめとするSDGs債を通して「三方よし」を実現できるものと考えています。「売り手」である当社はより多くの投資家の方に関心を持っていただくことで投資家の裾野を広げることができ、また当社のブランディングにつながります。「買い手」である投資家のみなさまにとっては投資を通じて社会貢献を実現でき、またそうした活動を世間に理解してもらうこともできます。「世間(社会の課題)」にとっては安全・安心・快適・便利な高速道路の整備が促進されるということで、全ての当事者にメリットがあります。国民のみなさまにとっても社会的課題の解決につながっていくということで、まさに三方よしがSDGs債ではないかと思っています。当社のような年間発行量の多い発行体が先頭を切ってSDGs債に取り組むことで、SDGs債市場の拡大と活性化に貢献できると考えております。

NEXCO東日本ホームページ(ソーシャルファイナンス)

対談(2) 災害対策支援と、社会課題の解決に向けた取り組み

Zホールディングス株式会社 ESG推進室 西田 修一氏
(対談相手:野村證券 デット・キャピタル・マーケット部ESG債担当部長 相原 和之)

西田 修一 氏
Zホールディングス株式会社 ESG推進室

社会になくてはならない存在であるために、さまざまな防災・減災、復興支援に取り組む

Zホールディングスグループでは、Yahoo! JAPANおよびLINEを中心に、検索・ポータルや広告、メッセンジャーなど多彩な事業を行っています。インターネットはたくさんの人が利用する、リアルタイムで情報を伝えることができるインフラです。私たちは社会になくてならない存在であるために、この災害の多い日本という国においては、防災・減災、復興支援に力を入れるべきだと考え、さまざまな活動に取り組んでいます。
たとえば、東日本大震災の復興支援では、2012年7月に宮城県石巻市に「石巻復興ベース」を設置し、10年間にわたり社員数名が常駐してさまざまな活動を進めてきました。2013年にスタートした「ツール・ド・東北」もそのひとつです。
また、近年頻発する台風などの自然災害などによる災害対策支援としては、発災から復旧、そして復興まで多様な取り組みを連動させて長期的に支援できる「災害支援プラットフォーム」を構築しています。Yahoo!のサービスとして、地域の緊急情報などをサポートする災害協定については、現在1,300以上の自治体と協定を締結し、人口カバー率は94%以上に達しています。当社グループでは、「UPDATE THE WORLD」をミッションとして掲げています。これからも日本の社会を安心・安全にアップデートしていきたいと思っています。

パネルディスカッション 金融を通じたSDGsと地方創生

福島県の震災復興を取り上げながら、それぞれ異なる金融機関という視点から、金融を通じたSDGsと地方創生を巡って貴重な意見が交わされました。

パネリスト

株式会社東邦銀行 取締役頭取 佐藤 稔氏(リモート登壇)

野村アセットマネジメント CEO兼代表取締役社長 小池 広靖

モデレーター

野村ホールディングス サステナビリティ推進室長 園部 晶子

まず初めに、東日本大震災からの復興について、お話しいただきたいと思います。

佐藤氏:

当行では、東日本大震災のあの日から今日まで、全行員が一丸となって地域のためにさまざまな取り組みを行ってきました。被災されたお客様に、緊急現金払戻しとして、震災発生翌日から、通帳・印章・カードをお持ちでないお客様への預金払戻しを実施しました。また、復興・成長フェーズにおいては、震災によって一層深刻化した後継者問題への対応策などとしてM&A業務に積極的に取り組んでいます。震災以降1,000件を超える相談を受け、そのうち約80件が成約となっています。このような取り組みを振り返って、なかでも大きかったと思うのは、震災直後の2011年4月、「すべてを地域のために」という新しいコーポレートメッセージを制定したことです。このメッセージがあったからこそ、混乱の極みのような状況のなか、行員たちが思い切った行動をとることができたのだと考えています。

続いて、野村アセットマネジメントにおける、地域創生の取り組みについてお聞かせください。

小池:

野村アセットマネジメントは、「投資」を通じた持続可能な豊かな社会の実現を目指しています。この取り組みは「インベストメント・チェーン(投資の好循環)」と呼ばれ、資産運用ビジネスのフレームワークとして注目されています。このようなフレームワークのなかで、当社では「志」プロジェクトを行っています。このプロジェクトは、資産運用と地方創生に向けた社会的取り組みの両立を目指したものです。各地域の金融機関でESG関連ファンドを販売いただいています。さらに一部のファンドでは販売額に応じて、当社が受け取る収益の一部を、販売していただいた地域に企業版ふるさと納税を通じて寄付するという仕組みになっています。

投資先企業との対話(エンゲージメント)を通じて、企業価値の向上、企業のSDGsへの取り組みを後押し

ESG関連ファンドの販売は、どのような経緯で採用されたのでしょうか?

佐藤氏:

決め手は今、小池社長がお話ししていただいたとおりです。私たち地域銀行が取り組むべき資産運用と地方創生という双方に結びつくものだと考えて採用しました。当行では、この4月に新しい中期経営計画をスタートし、「地域・お客様が輝く」「従業員が輝く」「当行が輝く」という基本方針を策定しました。地域やお客様が輝いて、それを販売する従業員も志を持てるということで、私たちの基本方針とも合致していると感じています。

小池:

とてもありがたいお言葉だと思います。当社では、このような「志」にお応えしていくために、販売いただく方を対象とした、ESGやSDGsに関わるさまざまな研修活動を行っています。地域金融機関のみなさま、その先のお客様を含めた全員で、持続可能な豊かな社会に向けた一体感をつくることができたら素晴らしいなと思っています。

次に少し視点を日本全体や将来に向けて地方創生のお考えや取り組みをご紹介ください。

佐藤氏:

地方創生は、私たちのような地域銀行にとって、一丁目一番地の仕事であると考えています。当行でも、寄付型私募債を活用した地域貢献、ESG/SDGs関連融資制度、創業・新事業展開のサポート、次世代経営者の育成、自治体との連携など多様な取り組みを進めています。本セミナーの基調講演で内堀知事がお話ししたとおり、福島県では数多くのプロジェクトが動いています。私たちも地域銀行として積極的に関わり、地方創生の次の流れをつくっていきたいと考えています。

欧米と比べるとまだまだ日本の金融リテラシーは低いといわれていますが、運用会社としては、どのように考えますか?

小池:

私自身は、日本人の金融リテラシーは低いとは思っていません。ただ、「資産運用を行うという文化や習慣」が根づいていないのは確かだと思います。そのような啓発活動も社会的使命のひとつと考え、当社では「野村アセットマネジメント 資産運用研究所」を設立し、資産運用文化や投資の普及に努めています。

最後に、より長期的なスパンで、今後20年、30年後、金融機関はどうあるべきでしょうか?

小池:

20年、30年後も「資産運用・投資を通じて豊かな暮らしを提供する」「世の中の役に立つ」資産運用会社でありたいと思っています。金融機関として、一人ひとりのお客様・投資家に寄り添いながら、「人生のお金の設計図」の書き換えをお手伝いしていきたいと考えています。
しかし、たとえお金の準備ができても地球環境が健全でなければ不安な生活が続いてしまいます。私たちは日本最大級の機関投資家として、エンゲージメントを通じて企業の脱炭素化を積極的に後押ししていくことも使命であると考えています。

佐藤氏:

私たちも将来のあるべき姿についてはいろいろ議論を行っています。そうはいっても、20年、30年後も地域金融機関として果たすべき役割は変わりがないだろうと思っています。その一方で、未来がますます見通しにくくなっていることも事実です。そのためにも、目の前の10年をいかに深く掘り下げていくかが重要になると考えています。
これからも地域経済への貢献に加え、ESG/SDGs、デジタル・トランスフォーメーションなど金融サービスの枠を超えた幅広い分野での取り組みを進めていきます。地域・お客様から頼りにされ、地域社会の輝く未来を実現するお手伝いができる銀行であり続けていきたいと思っています。

野村グループは、「社会課題の解決を通じた持続的成長の実現」という経営ビジョンのもと、持続可能な社会の創造に資する金融サービスの提供を通じて経済成長や豊かな社会の創造に貢献していきます。今後もこのようなセミナーを継続して実施し、金融商品やサービスを通じて、さまざまな社会課題の解決に取り組んでいきます。

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