パンデミックの影響と2020年株主総会・議決権行使

野村資本市場研究所 西山 賢吾

要約

  1. 新型コロナウイルス感染症の株主総会に与える影響が現実味を帯びてきた。関係各省庁等より、2020年3月本決算企業が開催する6月株主総会について、従来の日程での総会と継続会の二段階での開催や、株主総会の7月以降への延期を事実上容認する見解も出されている。
  2. 日本では、株主総会に出席できる株主と、配当を受ける権利を持つ株主を決定する「基準日」を同一とするのが一般的なことや、それらの権利が有効であるのは基準日から3カ月以内と会社法で規定されていることから、3月決算企業の場合、6月後半に株主総会を開催している。このような中で、継続会の開催には通常の株主総会で開催の承認を得ることが、総会を延期するには改めて基準日を設定し、延期される総会の開催2週間前までの公告が必要である。
  3. 継続会との二段階開催は、基準日の変更を伴わず剰余金処分や取締役選任議案を総会に諮ることができるが、決算が未確定なままでの議決権行使を問題とする見方がある。一方、基準日変更を伴う株主総会の延期は、決算、監査、議決権行使の実務のひっ迫を緩和することが期待されるものの、従来の基準日時点で配当を受け取る権利を獲得した株主が、新たに設定される基準日の前に株主ではなくなっていた場合、配当を受け取れないという問題が生じる。
  4. 現状では機関投資家においてもどちらが適当かについて見解が分かれていることや、どちらを採用するにせよ新たに総会の開催場所の手配を始めとしたさまざまな段取りが必要なことから、実際にどのくらいの企業が採用するかは未知数である。よって、タイトなスケジュールの中で決算を確定し、予定通り株主総会を開催する企業が結局多くなることも考えられる。
  5. パンデミックの現状から考えると、高い品質の決算や監査、議決権行使の実務を行うための労力は平時に増して重いと見られるが、今回の「災禍」を機会に、企業、投資家、アセットオーナーが足並みをそろえて企業の中長期的、持続的な成長を促すことに一層注力することになれば、日本企業の競争力や金融資本市場のプレゼンス向上にもつながるであろう。
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