新型コロナウイルス感染症と地方公共団体の資金繰り
-ポストコロナの地方債の安定調達に向けて-

野村資本市場研究所 江夏 あかね

要約

  1. 新型コロナウイルス感染拡大に伴う影響が全国の地方財政にも及ぶ中、総務省は2020年5月22日、2020年度内の資金繰り支援策を地方公共団体に連絡した。同支援策は、(1)地方税の徴収猶予による減収対応を目的とした猶予特例債の創設、(2)減収補填債の公的資金の確保、(3)共同発行債の償還年限多様化と発行額の増額、(4)公営企業における特別減収対策企業債の発行、(5)地方債の早期発行を可能とする手続きの弾力化、で構成されている。
  2. 総務省が示した2020年度内の資金繰り支援策は、地方公共団体の歳入確保を包括的に支援する内容となっており、国による地方公共団体の信用力や地方債市場の安定性維持へのコミットメントの強さを改めて浮き彫りにするものと解釈される。これらの支援策に伴う地方債発行額の全体的な規模は、今後発表される地方債計画の改定を通じて明らかになるとみられる。
  3. 日本の地方債市場をめぐっては、新型コロナウイルスの感染拡大といった状況下においても、比較的落ち着いた市場環境が維持されている。しかし、ポストコロナの地方債市場を見据えた場合、地方公共団体が資金調達の安定性を享受し続けるためには、起債運営にさらなる工夫が求められる。
  4. 地方債の発行に係る工夫で近年注目される動きとしては、(1)国内外貨建て公募地方債の発行、(2)参照するベンチマークの見直し、(3)調達資金が持続可能な開発目標(SDGs)に貢献する事業に充当されるSDGs債の発行、が挙げられる。特に、SDGs債の発行については、日本の地方公共団体が既に発行しているグリーンボンドのみならず、例えば公立病院の機能強化が求められた場合に必要な財源をソーシャルボンドで調達することもあり得る。
  5. 新型コロナウイルス感染症の終息を見通せない中、地方債発行に係る継続的な工夫が、効率的・効果的な財政運営の一環として中長期的な地方財政の持続可能性を確保するために、ますます重要になると考えられる。
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