非財務情報開示の現状の課題と内閣府令の改正

野村資本市場研究所 板津 直孝

要約

  1. 国際的な無形資産投資やESG(環境・社会・ガバナンス)投資への関心の高まりなどを背景に、中長期的に財務インパクトを及ぼす可能性のある非財務情報の重要性が高まってきている。機関投資家は、投資先企業が自社に影響を及ぼす可能性の高い非財務的な事項をどのように識別し、経営戦略や中長期計画に取組んでいるかを理解するために、投資の意思決定に資する非財務情報に高い関心を寄せている。しかし、日本企業による非財務情報は、投資家の求める水準に至っていないという課題が指摘されている。
  2. 金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(ディスクロージャーWG)では、有価証券報告書の中での非財務情報に該当する記述情報の開示の現状について、いくつかの課題を具体的に挙げている。リスク情報に関する開示では、一般的なリスクの羅列となっている記載が多く、外部環境の変化にもかかわらず数年間記載に変化がない開示例も多いほか、経営戦略とリスクの関係が明確でなく、投資判断に影響を与えるリスクが読み取りにくいことが指摘されている。
  3. ディスクロージャーWGでの検討と審議を踏まえ、2019年1月31日、「企業内容等の開示に関する内閣府令」が改正された。この改正により、2020年3月期の有価証券報告書から、非財務情報である記述情報の充実が求められる。企業固有のリスクの識別に当たって、同改正で注目すべき点は、各企業において、重要性という評価軸を持つことを求めていることである。
  4. しかし、企業が重要性という評価軸を持つべきであるという原則主義だけでは、投資家の求める情報開示に至るまで、未だ困難を伴うと推察される。原則主義の下、実務において実効性を備えるには、それぞれの企業に適した非財務情報開示に関わる各種ガイドラインやフレームワークなどを参考にすることが有用である。企業が、今後、どのように自社固有の重要なリスク及び不確実性の要因を識別し、財務インパクトの度合いに応じた濃淡ある開示をするかが、注目される。
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