我が国上場企業の株式持ち合い状況(2019年度)

野村資本市場研究所 西山 賢吾

要約

  1. 野村資本市場研究所で算出した2019年度の「株式持ち合い比率」は前年度比で低下した。持ち合い(政策保有株式)が我が国のコーポレートガバナンス改革の中心的な課題として位置づけられる中、各企業が保有の合理性に乏しい株式を売却する動きを進めていることが要因と考えられる。
  2. 保有主体別にみると、上場事業法人、上場銀行、保険会社とも株式保有比率は低下しており、持ち合い解消、政策保有株の圧縮は業種を問わず進められていることがうかがわれる。また、3 月決算のRussell/Nomura Large Cap 構成企業を対象に政策保有株式の変化を少し詳しくみると、事業法人では取引関係と結びついた株式の取得も引き続き見られている。また、金額としては小さいが、相手先企業の持ち株会への出資による株式取得は広範囲に行われている。さらに、新規事業開拓やベンチャーキャピタルへの投資を名目に非上場株式への投資はむしろ増加していることが分かる。これらは政策投資というよりも出資の色彩が強い。
  3. 2021年より議決権行使助言会社のグラス・ルイスが、「保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式」の「貸借対照表計上額の合計額」が連結純資産と比較して10%以上の場合、会長(会長職が存在しない場合、社長等の経営トップ)の選任議案に反対助言を行う。これにより、機関投資家の議決権行使基準に持ち合いを反映させる動きが出てくるかどうかが注目されるが、当面はエンゲージメント(企業と投資家との対話)のテーマとして扱われることが主になるであろう。その際には法定開示を超えたさまざまな情報の提供や開示が投資家から企業に求められると想定されるため、企業側からの自発的、積極的な対応が期待される。以上のような状況を勘案すると、株式持ち合いの解消の動きは緩やかに継続すると考えられる。
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