高等教育の持続可能性と大学SDGs債の未来

野村資本市場研究所 江夏 あかね

要約

  1. 海外の大学では2010年代半ば頃から、調達資金が「持続可能な開発目標」(SDGs)に貢献する事業に充当されるSDGs債の発行に取り組むケースが見られている。2020年10月には日本初の大学SDGs債として、東京大学がソーシャルボンドを発行した。
  2. 大学がSDGs債に着目する主な背景として、(1)長らく根付いていた「持続可能な開発のための教育」(ESD)の存在、(2)持続可能な社会の課題を整理したSDGsの登場、(3)環境・社会・ガバナンス(ESG)投資と教育関連の投資家層の拡大、が挙げられる。
  3. ブルームバーグの統計に基づくと、世界の大学SDGs債の発行残高は2020年10月末時点で約23億ドルとなっており、種類別ではグリーンボンドが全体の約7割、国別では米国が6割強、平均発行年限は約20年となっている。
  4. 大学SDGs債は、今後も発行額が増加する可能性が高いと考えられる。これは、(1)SDGsをめぐって、大学を含めたステークホルダーが達成に向けて一丸となって取り組む必要があり、大学には専門知識の提供等で立役者となることが求められている、(2)公的セクターの財政制約に鑑みると、国からの交付金等の財源が大幅に増えることは想定されない、(3)デジタル革命やグローバル化の進展により、世界的に知識集約型社会へ転換が進み、大学においても競争が激化する中で機能強化することが求められている、といった要因が挙げられる。
  5. 今後、大学にとって、大学SDGs債が安定的な財源調達手段の1つとなるためには、(1)ESG/サステナブルファイナンスに関する教育の拡充、(2)追加性の創出、(3)情報開示・IRの拡充、等の論点が挙げられる。
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