新型コロナ禍で揺らぐ所得保障とユニバーサル・ベーシックインカムの可能性

野村資本市場研究所 野村 亜紀子

要約

  1. 新型コロナウイルス感染症対策が引き続き模索される中で、世界各国でユニバーサル・ベーシックインカム(UBI)に対する関心が高まっている。UBIとは、全ての個人を対象に、キャッシュを無条件に支給する制度である。誰もが一定の経済的な保障により自由と安全を得られるようにすることを目指す。
  2. UBIは受給資格の審査を伴わないので、迅速かつ包括的な支給が可能である。この特徴は、変化のスピードが速く想定外の事態が頻発する現代社会において魅力的と言える。他方、個人の勤労意欲や労働市場に及ぼす影響は未知数である。また、多額の財源確保の必要性という難問を伴う。
  3. 実在するUBI近似の制度としては、米国アラスカ州の恒久基金配当(PFD)プログラムが挙げられる。フィンランドでは2017~18年に国レベルの実験プロジェクトが行なわれた。対象が失業者に絞られたこともあり実験結果は推進派・慎重派双方にとって不明瞭なものだったが、実験プロジェクトを検討する地域は続出している。欧州では欧州連合(EU)レベルでのUBI導入が政策アジェンダに載る可能性も出ている。
  4. UBIは、現行の所得保障制度と現実とのミスマッチを補う潜在的可能性を有する。ただし、財源確保は容易ではなく、環境税のような新しい発想も必要となろう。また、給付金をどう活かすかは本人次第であり、個人に自己規律を求める制度である。自助努力を支援する施策との「合わせ技」が整合的であろう。
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