米国の州政府・地方公務員年金基金で進む包括的なESG投資の拡充

野村資本市場研究所 林 宏美、加藤 貴大

要約

  1. 米国では、トランプ政権下でパリ協定から正式に離脱するなど、連邦政府レベルで見ると気候変動への対応に後ろ向きの施策が取られてきた。2020年11月には、米国労働省が公布した従業員退職所得保障法(ERISA)関連の新規則に、ESG(環境、社会、ガバナンス)への取組みを躊躇させ得る内容も盛り込まれた。
  2. その一方で、州レベルでは、オレゴン州公務員退職年金基金等の運用を監督する同州投資評議会が2020年9月、新たにESG統合に関する項目を投資判断に追加したほか、イリノイ州では2020年1月、投資判断にESG要因の組入れを求めるサステナブル投資法が施行されるなど、ESG投資を促す動きが目立ってきた。
  3. 州の公務員年金基金では、これまでESGの中でも主に焦点を当てられてきた環境面(E)のみならず、社会面(S)を含め、より包括的にESG要因を組み入れる取組みも進められている。運用ポートフォリオにおけるダイバーシティ(多様性)のインパクト評価を支援するツールを導入した大手公務員年金基金も複数見られる。もっとも、その計測指標や情報開示においては課題も少なくない。
  4. 気候変動等への消極的な対応が目立ったトランプ政権下でもESG投資拡充に向けた取組みが州レベルで進展した点は、米国の多様性の表れと評価できる。バイデン次期政権がESGに対して前向きな政策に舵を切る公算が大きいなかで、オレゴン州やイリノイ州の運用方針の考え方が、連邦レベルの取り組みに参照されていくのかは要注目であろう。
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