生物多様性がもたらす金融リスクおよび機会への取組み
-気候変動と並ぶ環境(E)ファクター-

野村資本市場研究所 林 宏美

要約

  1. 生態系システムにおける人間と動物とのバランスの乱れ等が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の主原因とされるなかで、COVID-19の世界的大流行により、生物多様性や生態系サービスに注目が集まっている。
  2. 近年では、気候関連財務情報開示(TCFD)の生物多様性版である自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)、生物多様性のインパクトを測定するPBAFの確立に向けた動きが具体的に動き出すなど、気候変動と並んで、生物多様性の保全、生態系システムの保護といった自然資本への取組みも目立つ。生物多様性の損失をもたらす主要因の一つでもある気候変動に加えて、生物多様性がもたらす金融リスクや機会を把握しようとする動きが、気候変動への取組みと平仄を合わせている点は、ESG(環境・社会・ガバナンス)におけるE(環境)を包括的に捉えやすくなる。
  3. 生物多様性への取組みは官民連携の様相を呈している特徴を指摘できる。アクサ等が発出した提言に端を発するTNFD導入に向けた動きは、アクサ、フランス政府、WWFフランス等が協働しており、2020年に発足したIWGには、英国、フランス、スイス、ペルーの各国政府等に加えて、国際機関、民間企業38社(金融機関33社、非金融法人企業5社)など、幅広い属性および地域のメンバーが参加している。
  4. 気温上昇を産業革命以前の1.5℃から2.0℃に抑えようとする世界目標が設定されている気候変動対応と異なり、生物多様性についての世界目標の設定はこれからである。そして、生物多様性の損失がもたらす経済的な影響を数値化する作業は複雑さを呈しているが、COVID-19のパンデミックのように、システミック・リスクが具現化するなどに鑑みると、今後自然資本をめぐるリスクや機会の把握は必至であろう。
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