取締役会の多様性重視の機運と米国ナスダックの上場規則改正案

野村資本市場研究所 林 宏美

要約

  1. 米国の証券取引所ナスダックは、2020年12月1日、取締役会メンバーの多様性(ダイバーシティ)確保および開示を求める新たな上場規則案の導入について、米国証券取引委員会(SEC)に承認を申請したことを明らかにした。上場規則に多様性の観点を組み入れようとする証券取引所の動きとしては、ナスダックが先鞭をつけた形である。
  2. ナスダックの新上場規則案では、米国取引所に上場する全企業に対して、取締役会メンバーのダイバーシティに関して、継続的かつ透明性の高い統計情報の公表が義務付けられる。加えて、大半の上場企業はダイバーシティの観点を充たす取締役を少なくとも2人(一人は女性、もう一人は人種或いは民族その他のマイノリティ)登用することが求められる。遵守しない場合には、その理由の開示を義務付ける「コンプライ・オア・エクスプレイン」の枠組みが適用される。
  3. 仮に新規則導入により、企業価値評価や投資判断の材料として注目度が高まっているダイバーシティ関連の開示情報が増えれば、そのこと自体は歓迎すべきである一方、適切な開示に向けて慎重に対応すべき論点も少なくない。企業を取り巻くさまざまな要素が異なれば、ダイバーシティの追求が企業業績等にもたらす影響等も異なる可能性がある。
  4. ダイバーシティ関連データの不足が指摘されるなかで、ナスダックの取り組みがデータの蓄積に繋がり、ダイバーシティ関連の開示をより適切なものに変えていく道が拓かれることも意義深い。ダイバーシティの情報開示を重視するゲンスラー新SEC委員長の下、同規則案のゆくえに注目したい。
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