米国の企業年金プランによるESG投資を巡る議論

野村資本市場研究所 岡田 功太、中村 美江奈

要約

  1. 米国では、過去30年間以上にわたって、1974年従業員退職所得保障法(ERISA)が規定する受託者責任の観点から、企業年金プランによる環境・社会・ガバナンス(ESG)投資の適切性について議論が重ねられてきた。企業年金プランによるESG要素の考慮は、特定の信条を反映することになり得るが、フィデューシャリーとしてプルーデントに行動していると言えるのか、といった議論である。
  2. 歴史的に、民主党政権は企業年金プランによるESG投資に寛容なアプローチを採用してきた。ビル・クリントン政権及びバラク・オバマ政権は、ERISAの注意義務要件を規定する投資義務レギュレーションの解釈通知において、ESG投資と非ESG投資のリスク・リターンが同等であれば、企業年金プランによるESG投資は可能であるとした。
  3. 他方で、共和党政権は企業年金プランによるESG投資に抑制的な姿勢を示してきた。ジョージ・W・ブッシュ政権は、解釈通知を書き換えることで非経済的要素の考慮は「希少」であるべきだとした。ドナルド・トランプ政権は、投資義務レギュレーションを改め投資選択規則を策定し、金融面の対価にのみ基づき投資選定を行うべきだとした。
  4. ジョー・バイデン政権は発足以来、ESGに係る取り組みを推進する意向を示しており、投資選択規則の執行を見合わせた。現政権は再びESG投資に寛容な政策を打ち出す可能性はあるが、政権交代の度に姿勢が見直されてきたことを踏まえると長期的な継続性は不透明である。
  5. ESG投資が、非ESG投資に比べて、優れたリスク調整後リターンを創出できるのか、それをいかに実証するかは、グローバルな資産運用業界の重大関心事項である。今後、ERISAにおけるESG投資の適切性に関する議論の進展により、米国企業年金プランという主要なアセットオーナーの行動が、どのような影響を受けるのか注目される。
Nomuraレポートダウンロード
サステナビリティについてのお問い合わせ
メディアギャラリー