インパクト投資と受託者責任
-社会的・環境的インパクトと経済的リターンの議論-

野村資本市場研究所 板津 直孝

要約

  1. ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の急速な拡大に伴い、インパクト投資分野に高い関心が寄せられている。インパクト投資は、環境や社会へのポジティブな変化を生み出すこと自体を投資の目的としている。インパクト投資は、市場競争力のある経済的リターンを持つ場合もあれば、リスク・リターンの2軸に基づくマーケットレートよりも低い経済的リターンを許容する場合もあることから、投資の意思決定における社会的・環境的インパクトの考慮は、受託者責任(Fiduciary Duty)に反するのではないかという議論がある。
  2. 金融庁の「サステナブルファイナンス有識者会議」が2021年6月に公表した、「持続可能な社会を支える金融システムの構築」では、受託者責任の規律下にある主体においては、インパクト投資においても市場競争力のある経済的リターンを目指すことが求められるとしている。国連の責任投資原則(PRI)が国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)及びGeneration Foundationと共同で、2021年7月21日公表した「インパクトに関する法的枠組み:投資家の意思決定におけるサステナビリティのインパクト」においても、経済的リターンの目標を達成する上で効果的である場合、受託者責任の規律下での機関投資家は、環境や社会のサステナビリティに及ぼすインパクトを検討し行動することが求められるとしている。
  3. 社会的・環境的インパクトという目標の追求と経済的リターンとは、一般的にトレードオフの関係があると考えられてきた。しかし、サステナビリティ課題に対する認識の高まりと世界的な取組みの進展により、近年、両者には強い動的な連動関係が生じ始めている。投資家は、社会的・環境的インパクトの投資戦略への組み込みを、今まで以上に追求していくことが求められてきていると言える。
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