EUの新たなサステナブルファイナンス戦略

野村資本市場研究所 磯部 昌吾

要約

  1. 欧州委員会は、2021年7月6日、環境・社会・ガバナンス(ESG)投資の促進を目指した政策文書「持続可能な経済への移行を目指したファイナンス戦略」を公表した。
  2. 欧州連合(EU)が目指す環境目標の達成には多くの資金が必要となるところ、欧州委員会は、ESG投資を促進するべく、2018年3月に公表したサステナブルファイナンスに関するアクション・プランの検討事項に上乗せする形で制度整備の強化を図る方針である。
  3. 従来から取り組んできた、(1)EUタクソノミーの開発、(2)ESG関連情報の開示、(3)ESG投資のための金融商品/金融指標ラベルの導入に関する検討を更に広げるほか、新たに、(1)信用格付におけるESGリスクの捕捉、(2)ESG評価会社の在り方、(3)金融機関のESGリスク管理に対する規制介入を強めようとしている。また、投資判断や投資アドバイスにおいてサステナビリティ・インパクトの考慮を求めるべきなのか評価を試みようとしている。
  4. 加えて、金融安定理事会(FSB)に幅広いサステナビリティの問題への対処を求めるほか、EUが主導するサステナブルファイナンスに関する国際プラットフォーム(IPSF)の活動を強化するよう求める方針を示すなど、国際的な影響力の拡大も狙っている。
  5. EU規制当局が提示した金融分野のESG関連法令は、既に数千ページを優に超える。高い透明性と精緻な投資情報の提供は重要であるものの、制度の重厚さが増すほど幅広い投資家による理解は難しくなり、定着にも時間を要する。新たな戦略の下で、魅力的なESG投資案件が提供される市場環境をEUが上手く整備できるかが今後問われていくであろう。
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