僅差で認可された取締役会の多様性要件を含むナスダックの改正上場規則

野村資本市場研究所 林 宏美

要約

  1. 米国証券取引委員会(SEC)は、2021年8月6日、取締役会の多様性向上を目指すナスダックの改正上場規則を僅差で認可した。ナスダックの米国取引所に上場する殆どの企業は、(1)毎年1回取締役会の多様性に関するデータをマトリックス形式で開示すること、(2)多様性要件を充たす最低2人の取締役を選任するか、選任しない場合はその理由を開示すること、が求められる。上場規則に多様性要件を盛り込んだ証券取引所は、ナスダックが初めてである。
  2. 多様性に関する規則を遵守できないナスダック上場企業は、当該企業が立てた計画に基づいて遵守できる体制にすることが求められる。なお、企業が期日までに遵守に向けた計画を提出できないか、或いは計画を実行できない場合、ナスダックの上場審査部門が上場廃止決定書(Staff Delisting Determination Letter)を発行し、上場廃止となる可能性が高まる。
  3. ナスダックは、取締役候補者の人材プラットフォームのデータベースを企業が利用できるようにするなど、多様性向上に向けた取組みを円滑に進められるような支援も行う方針である。
  4. ナスダックは、企業の取締役会の多様性レベルに対する注目度が、近年の投資判断の重要な材料の一つとして高まっているなかで、多様性をめぐる一貫した、かつ他社との比較可能なデータの蓄積が進んでいない点に着目し、こうしたデータの蓄積に一役買うことで、投資家が利用しやすい投資判断材料を提供できるようにしたいという意図を強調している。
  5. 今後、上場規則に多様性要件を含む証券取引所を回避し、同要件が求められない証券取引所への上場を選択したり、そもそも新規株式公開を目指さずに、非公開企業として事業を継続する戦略を取る企業が増える可能性もある。今後の主要証券取引所の動向を注目したい。
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